映画、テレビ、動画投稿サイトと、近年のメディアの中心は動画となっている。ビルの大型モニターから電車内にまでスクリーンが設置されて、広告においても映像が主流だ。我々は膨大な映像に囲まれて生活している。それらの映像は様々な分野で、我々の理解を深めることに貢献し、創造を膨らませるきっかけとなっている。
溢れる映像のなかで、その技術力とクリエイティビティで質の高い映像を提供し続けている映像会社がある。どんな業界にでもある慣習や常識といったものに捕らわれずに、自らのスタイルを貫いているビヨゴンピクチャーズだ。ビヨゴンピクチャーズの代表取締役寺嶋章之氏に、その沿革とこれからの展望についてお話を伺った。
寺嶋章之:ディレクターとして数多くのミュージックビデオやテレビ番組、広告映像を30年近く手掛けてきた経験があり、あらゆる映像制作に精通している。近年は好奇心に溢れる子供番組を数多く手掛けており、受賞歴多数。
1997年、ビヨゴンピクチャーズ設立に参加。2010年より同代表取締役。
ビヨゴンピクチャーズ:「生きていて常にカタチを変えていく映像」という意味を込めて名付けられたビヨゴンピクチャーズはその名の通り、変化を続ける映像制作会社である。
1997年の設立以来、多角的な映像制作会社としてミュージックビデオに始まり、CMや広告映像、ドキュメンタリー番組やアニメーション、教育番組と様々な分野の映像を制作している。
主なクライアントはEY Japan、株式会社ベネッセコーポレーション、株式会社ユニクロ、株式会社WOWOWなど。NHK Eテレ「大科学実験」「ノージーのひらめき工房」などの教育番組も手がけている。
「ワクワクする未来をつくる」というミッションを掲げて、常にチャレンジを続ける映像業界のフロントランナーである。
——ビヨゴンピクチャーズとはどういった会社なのでしょうか。
映像制作会社としていろいろなジャンルの映像を制作しています。
特にテレビ番組や映像広告が多いですね。
現在は、若い世代のベンチャー企業とも積極的に関わって、映像会社としての活動の幅を広げています。
大規模な会社ではないのでコミュニケーションを大事にしています。
また、プロジェクトごとにメンバーの編成も担当する役割も流動的に変えているため、各社員が幅広い経験と多様なスキルを持っているのが特徴です。
——どういった経緯で会社を設立したのでしょうか。
学生の時から8ミリフィルム(註1)で映像を撮っていて、その中で賞をいただいく機会があって、以前から映像を作る仕事をしたいなと思っていたこともあり、そのまま映像業界に進みました。
当時は映像業界全体が今とは随分違っていて、映像ジャンルごとにテリトリーのようなものがあったんです。
映画業界、テレビ業界、CM業界で全く違う世界だったので、どれかに携わると他の仕事はできない状況で、会社に入って辛い下積み時代を経て一つの業界に落ち着くというのが一般的でした。
そんな中で、私はフリーランスとして仕事を始めたので、いろいろと仕事を受注するために会社が必要でした。
そこで仲間と一緒にビヨゴンピクチャーズを設立しました。
——ビヨゴンピクチャーズではどういった映像を制作してきたのでしょうか。
設立当初は、ミュージックビデオの制作をしていました。
当時はミュージックビデオ黎明期で参入への障壁が少なくて、そこにチャンスを感じました。
ミュージックビデオを専門的に扱う人たちが少なくて、CM制作会社はコストがかかるし、映画製作会社は音楽に合わせた編集があまり得意ではないとか、テレビ制作会社は映像のクオリティが物足りない、という感じで。誰に頼めばいいんだろうみたいな感じだったんですよね。
当時の会社は、自由にやりたいことができる場が欲しい若いメンバーが集まっていました。
そんな会社で、ミュージックビデオを無我夢中で作っていました。
お金のためというよりもやりたくてやっていたので、仕事として成り立っていなかったこともありましたが。
でも、その中で試行錯誤を繰り返すことで知識も技術も身についていき、それらが映像に反映されていって、私たちの映像が評価されることも増えていきました。
それと共に他ジャンルのクライアントから声がかかり、CMやテレビ番組、映画のオープニングタイトルなど、様々なジャンルの映像を手掛けるようになりました。
——ビヨゴンピクチャーズの映像制作における特色はありますか。
多くの会社の場合、各社員が特定の分野に特化することが普通ですが、ビヨゴンピクチャーズでは全ての社員が一通りの作業を経験するというのが昔から続いています。
映像制作における担当は、基本的にそれぞれの希望に沿うように決めますが、撮影や編集、アニメ―ションのデザインまで、みんながそれぞれやってみることを勧めています。
そうすると、得意不得意を互いにフォローをし合えるようになるので、自然とチームとして一つの仕事をしている意識が芽生えます。
そうしてチームとしての意識を高めることで、社員同士の円滑なコミュニケーションができるようにしています。
その中で、ビヨゴンピクチャーズとして積み重ねてきた、感覚的に心地よいものを作るためのエッセンスをできるだけ共有します。
——会社のミッションである『ワクワクする未来を作る』というのを踏まえて、現在見据えていることはありますか。
映像を手段として使うことで、未来を具現化できたらと考えていますね。
映像を使えば、思い描く未来のワクワクできるところを強調し、印象的に表現することができます。ミッションにある「未来を作る」とは、我々が未来を築くというよりも、あなたが考えている未来を具現化しますよ、ということを目指していますね。
企業が新事業を始めるときに、それを分かりやすく皆さんに伝えるための映像を作るというプロジェクトもその取り組みのうちの一つです。
現在ビヨゴンピクチャーズでは、「Zip Infrastructure株式会社」(以下Zip)という学生ベンチャーから始まったスタートアップ企業のために、広報映像の制作やビジュアル制作を行なっています。
Zipは宇宙エレベーターについて研究していた学生が、宇宙エレベーターの機構を使って自走式ロープウェイを提供することを目指して設立したスタートアップ企業です。
ロープウェイというインフラを作ることを目指す彼らの夢に、僕自身が強く共感したので、映像制作という形で協力することになりました。
ZipがNewsPicks(註2)主催の起業を応援する企画で優勝するなど注目を集める中で、我々はロープウェイが街中で走行する様子を再現した動画を作ることで、広く彼らの構想を伝えることができていると思います。
論文だけだと分かりにくいことを視覚的に表現して、理解しやすいようにする。そして、そこにストーリーも感じられるようにする。
それが今回のプロジェクトの目的です。ぜひワクワクする未来を映像で見ていただきたいですね。
私たちビヨゴンピクチャーズはワクワクする未来の実現を目指して、映像制作を通じてたくさんの人のサポートをしてきました。
そして、これからもそういった事業に積極的に取り組んでいきたいです。
(註1) 8ミリメートル幅のフィルムを利用して撮影された映画
(註2) 日本のオンライン経済メディア、ニュースサイト
Zip × biogon
学生ベンチャーから始まったスタートアップ企業として、自走式ロープウェイの開発を行なっているZip Infrastructure株式会社に対し、ビヨゴンピクチャーズはスポンサーとして映像制作、ビジュアル制作の面でサポートを行なっている。Zipのロープウェイの構想がビヨゴンピクチャーズによって具体的にビジュアライズされた映像は、YouTubeで一万回以上も再生された。Zip infrastructure代表 須知高匡さんと寺嶋さんによる対談が、ビヨゴンピクチャーズのホームぺージに掲載されており、詳しい今後の展望についてはそこで知ることができる。