今を生きるユースの多くが抱える悩みのひとつに、自己選択の難しさが挙げられる。
「安定志向」、「一度きりの人生」、etc… 林立する価値基準の中に置かれ、大切にしたいことは何か、自分にとってベターな将来とは何かを見失ってしまう。
人生の先輩からそのヒントを得ようというコンセプトのもと、今回は漫画家の不吉霊二さんにインタビューを行なった。連載、個展の開催をはじめ、DJなど多方面での活躍も見られる彼女の原動力やバックボーンについてお話をうかがった。
不吉霊二:広島県出身の漫画家。早稲田大学在籍中に自費出版『ぜ〜んぶ!不吉霊二』でデビュー。
漫画とエッセイのWEBサイト「トーチ」にて連載を開始し、2020年に『あばよ〜ベイビーイッツユー〜』(リイド社)をリリース。2022年にはドレスコーズのアルバムのアートワークを担当。
漫画家『不吉霊二』
——漫画家になろうと思ったきっかけから教えてください。
実は漫画家にずっと憧れていたわけじゃなくて、今もそこまで漫画家という職業に強い誇りを持っているっていう感じではないですね。最初に描いた漫画が、たまたま周りの人に面白いって言ってもらえて。恐縮ながら、それで目指し始めました。
——漫画家になろうと思ってなったわけじゃないんですね。
そうね、たしかになろうと思って努力はしました。2年くらい持ち込みにいったりね。けど、ちょっと足を踏み入れたものをせっかくなら極めようと思っただけで、もしもお寿司の世界に入っていたら寿司職人になっていたかもしれないです(笑) たまたまハマったものが漫画だったっていうだけで。
高校生くらいまでは画家になりたくて。美大に行きたかったんだけど親に反対されて行くことができなかったんです。でもずっと画家になりたいなって気持ちはあったかな。
——ありがとうございます。“不吉霊ニ”という個性的なペンネームには、なにか由来はありますか?
『ドカベン』っていう作品の、不吉霊三郎というピッチャーから取っています!単純にいい名前だと思ったから(笑)
——個性的で印象に残るお名前ですよね。 漫画家やイラストレーターと幅広く活動されていますが、絵を描くことへのこだわりはありますか。
わたしは毎日絵を描くと決めていて。
描かない状態が続くと絵がだんだん自分のなかで詰まっていって便秘のような状態になってしまうんですよね。
だからできるだけ毎日描いて便秘にならないようにしています。
でも、描くだけ描いて絵を溜めてしまうと、絵たちが誰かに見てもらいたいって言ってくるようになるんですよ、それで個展を開いたりしています。
漫画に関しては、やっぱり読んでくれる人がいるっていうのを強く意識していますね。
自分だけが暴走しないように、果たしてこれはちゃんと他の人の30分とかを取ってもいいものなのかどうかを考えて描いてますね!
——ちなみに、霊ニさんの漫画にはヤンキーが出てくることが多いと思うんですけど、なにか理由がありますか?
あるんだけど、別にヤンキーがめっちゃ好きだからってわけじゃなくて。
描いてて華があるからですね! やっぱりね、ボブの人とかを描いてもすぐ終わるじゃないですか、形がマル!みたいなね。
だから絵を描く分には、やっぱりとんがったツンツンとか、リーゼントの方が描いていて楽しいという、そういう理由ですね。
学生時代について
——霊ニさんは大学在学中から漫画を描き続けていたということですが、どのような学生生活を送っていましたか?
中高生時代は、カルチャーって呼べるものにはそこまで深く触れてきていなかったんですけど、音楽や映画自体は好きで、それで早稲田に入りました。
大学生時代はね… 女子大生なんて“愛の狩人”と言われているくらいですからね、私ももれなく“愛の狩人”でして。
恋に愛に奔走しておりました。その頃のことが漫画のネタになっている部分もありますね。
——学生時代に影響を受けた人物について教えてほしいです!
早稲田大学の長谷正人先生かな、映画理論の講義とかをしている人なんだけど。
あの人の授業にすごく影響を受けました。
なんかさ、「学問」って言われちゃうとすごく難しく考えてしまうじゃないですか。
でも長谷先生の授業を受けて、本当はそれぞれ全て血の通った部分があって、もっと自分という存在と学問を切り離さなくてもいいんだ、と初めて思えたんですよね。
長谷先生にはすごく影響を受けました。
——長谷先生の授業面白いですよね!他にもオススメの授業があれば教えてほしいです。
大学の授業は、案外興味ないと思うやつもやってみるといいと思う、漢文とか。
——漢文!?
わたし漢文とか古文とかの授業すごい取ってたんだよ。
当然途中で行くのめんどくさくなるんだけど、後になって「ああ、私は漢文とかやってたんだー」って思うとなんか気持ちに余裕ができるんだよね。
人生には幾分か漢文に割いてた時間があるんだから別に今日大したことがなくてもいいんだ、という気持ちになる。
——心の余裕ってことですね。そういえば、霊二さんの漫画を思いがけないところで発見しました。“早稲田乞食”っていう早稲田の出版サークルにも漫画を寄稿されてますよね!
そうなんです、所属してたとかじゃないんだけど、めちゃくちゃおもしろいと思って。
これに投稿しない手は無い!ってことで押し付けるような感じで漫画を送りつけてました。
早稲田乞食は全部手書きで、ものすごく伝統があるっていうね。
ちゃんと大学の図書館にも入るし貴重な歴史的資料なんだよ(笑)
幅広い活動
——これまで漫画家としての活動について聞いてきましたが、霊二さんはDJとしても活動されていますよね。以前、カトーさん主催のマサカー(註)に参加されていましたが、どういった経緯があったんですか?
そのときのDJはたまたま友達が誘ってくれたっていう感じで。
マサカーみたいなアンダーグラウンドカルチャーとの関わりがめちゃめちゃあるってわけではないですね。
でもね、全てのことに興味があるし、そういうイベントとかも気になります!
——今までの経験のなかで、影響を受けた音楽はありますか?
それはいっぱいあるね、選べんよ〜!
音楽大好きだし全てのジャンルに興味ある。
…あ、でもね、「レゲトン」っていうジャンルがあって。
簡単に言えばプエルトリコのレゲエなんだけど、キューバに留学したときにレゲトンを愛好するファミリーと仲良くなってレゲトンの世界に案内してもらって、それで好きになりました。
まさか自分がレゲトンを好きになると思ってなかったので凄い嬉しかったです!
自分が知らない世界に足を踏み入れてまた別の芽が開いたって意味では、イチバンびっくりした音楽かもしれないですね。
——そもそもどうしてキューバに留学することにしたんですか?
「キューバの映画ポスター」っていう展示を見て、すごく綺麗だと思ったんです。
キューバって、物が少なくてインクとかも少ないから色が少ないポスターを作るんです。
それがすっごくいいなって思ってキューバに興味を持ったのがきっかけでした
自分の知らなかったいことを経験できるのって、すごく楽しいし素敵な事だと思う。
留学してたときのことをPOPEYEにコラムとして寄稿もしていて、そこではさっきの家族のお手伝いさんだったドゥネちゃんのことを書きました!彼女も、日本にいたら絶対出会えないような人だったな。
霊二さんから学生へ
——就職とやりたいことの狭間で揺れている学生へ、将来についてのアドバイスをお願いします。
好きなことと義務はやっぱり一緒にするべきじゃないと思う。
絶対に自分を幸せにするように生きた方がいい。
好きなものにこだわる必要はマジでない!
好きなものとかやりたいことがいちばんでしょ、っていう時代だけど案外それは罠だったりするというか、自分の幸せへの遠回りになるかもしれないからとにかく自分が幸せになるような、楽な道を選んだほうが私はいいんじゃないかなって思います。
20代前半とかでね、好きなものが絞れるわけがないので…
当時は私が20歳のときは「ああ!もうハタチになっちゃった!」とか「もう23歳になっちゃった!」とか焦ってたんだけど、卒業して、25歳になってみて、私の人生全部のなかでティーンエイジャーの時代は終わったけど、今から始まるめっっちゃ長い社会人のなかでは、そのめちゃくちゃ若いとこにいるんだ!って思った。
そっからもう20代が終わっちゃう焦りとかは全然感じないようになって、また振り出しに戻ったのね。
だから学生時代は焦らなくていいと思う。いっぱい悩んでください!
——ありがとうございました、最後に今後の活動予定などあれば教えてください。
今後ね、連載があります!
でもね、まだ1ページも描いてないんですよ(笑)
またトーチでね、連載しようと思ってます。
次は大衆演劇について描いていきたいかな!
(註)幡ヶ谷Forestlimitにて毎週水曜日に開催される古着屋NOVO!が主宰のイベント