生活する中で、自分を取り巻く環境によって感情や感覚が変化することはないだろうか。例えば勉強するとき、机の周りがきれいであれば心地よく勉強でき、集中力も上がる。それはオフィスについても同じだろう。今回、インタビューを行ったのは、村本建設株式会社総務人事部主任の阪本優果さんだ。今年、村本建設は健康的な空間に関する評価制度であるWELL認証のバージョン2「GOLDランク」を大阪本社、東京本社で取得した。その取得を牽引した阪本さんに、WELL認証とそれに込められた思いについて詳しくお話を伺った。
ーWELL認証とはどういうものですか。
アメリカで開発されたシステムで、空間のデザイン・構築・運用に「人間の健康とウェルビーイング」という視点を加えて、より良い住居や労働環境の創造を目指した評価システムです。この認証では空間のデザイン、広さなどの見た目の話だけではなく、空間をどのように使うのか、そこで過ごす人がどのように健康を促進できるか、などの直接目に見えない要素が評価対象になっている点が特徴です。
ーWELL認証を取得するために、具体的にどのような労働環境をつくりましたか。
例えば会社では長時間椅子に座ることで腰痛や肩こりを起こしてしまいがちなので、それを防ぐために立って仕事が出来るような場所を設けました。その他にも室内を快適な温度に維持することなど、様々な取り組みをしています。
ーWELL認証を取得しようと思ったきっかけはなんですか。
認証を取る過程で健康的な取り組みを進めていくことが、社員の幸せに繋がると思ったからです。村本建設は、つくられたものを売るのではなく、お客さまが希望するものを一からつくり上げる会社です。そして、様々なものをつくるためには社員の存在が不可欠です。だから社員を一番大切にしていて、企業理念でも「社員の幸せを追求する」ということを掲げています。そこで、社員の幸せをどう追求すればいいかと考えたとき、社員が働きやすく、健康的な環境をつくることが大事だという話になりました。そして同時期にWELL認証の存在を知り、取得を目指す中で社員の幸せを実現できたらと思い、取り組みを始めました。
ー既存建物でのバージョン2ゴールド認証については日本初の取得ということですが、取得していく中で難しかったことはありますか。
WELL認証を取得するにはいろいろな項目を満たす必要があります。カテゴリーが大きく分けて10個あり、それぞれのカテゴリーの中にもさらに細かい項目があるんです。その上、アメリカの認証システムなので日本ではあまり意識しないようなことまで求められました。例えば水質に関して言えば、日本の水道水はきれいなのが当たり前なので、日本ではその検査項目にすら入ってないようなものもWELL認証では求められます。また、英語で書かれた評価基準を日本語に訳して理解する際に微妙なニュアンスを汲み取るのが難しかったですし、また認証取得のための書類を作成する過程においても、申請内容をどのように英語で表現をするかなどに苦心しました。取得するまで大変なことも多々ありましたが、社内外のさまざまな人のサポートのおかげで無事に取得することができました。
ー取得までのプロセスにおいて、得られた知識や経験はありますか。
社員、特にWELL認証取得のプロジェクトメンバーの間でウェルビーイングを達成するための指標を共有することができました。WELL認証を取るまで、ウェルビーイングという言葉はメディアでなんとなく見たり聞いたりしていましたが、会社の中に明確な基準はありませんでした。でも、取得を通してウェルビーイングの知識を共有できたことで、オフィスのレイアウトを変えたり、お客さまに対してより良い空間をつくるための提案を根拠を持って示せたりするようになりました。
ー社員の幸せのために取得を目指した結果、お客さまへのサービス向上にも繋がっているのですね。「社員の幸せを追求する」という企業理念について、WELL認証以外には具体的に何をしていますか。
例えば服装の自由化です。それによって社員が心地よい温度で仕事を行えます。また、若手から中堅の社員を中心にした未来創造プロジェクトというものにも取り組んでいます。そこでは、どうしたら働きやすくなるのかなど、会社の未来を自分たちで考えて会社に提案するような機会を設けています。このように、目に見える部分、見えない部分、どちらにおいても環境を整えることで、社員の幸せにつながると考えています。
ー未来創造プロジェクトについて、詳しく教えてください。
村本建設の社員は年齢層が比較的高いので、若い人の意見を経営に反映させることは今まで難しかったのですが、そのようなプロジェクトを作って幅広く声を吸い上げることで、社内にいろいろな変化が生まれました。例えば、上下関係なく社員が繋がれる場を作るために、社員食堂を作ったりクラブ活動を行ったりしようという提案があり、今ではどちらも実現しています。
ー村本建設さんの職場における最大の魅力はなんですか。
会社の規模が大きすぎず小さすぎないので、社員間の距離が近く、一人ひとりの頑張りをみんなが見てくれるところですね。私自身、普段は事務仕事を担当しているので、WELL認証を取る際、建築についてはあまり分からなかったのですが、専門の知識がある人たちが助けてくれました。そういう人の良さを実感できることが最大の魅力かなと思います。
ー最後に、村本建設さんの今後の展望を教えてください。
会社全体で「社員の幸せを追求すること」を企業理念として、WELL認証をはじめいろいろなことに取り組んでいます。その試みを持続させ大きくすることで、社員一丸となって良い建設物をつくっていきたいです。そして、ますます社会に幅広く貢献して、街の至る所に村本建設の名前が広がっていけばいいなと思います。
村本建設は1908年の創業以来、人と人とのつながりを最重視してきた、顧客の要望に一から応える建設会社である。現在建築の分野ではマンション、大型店舗、医療福祉、教育文化施設など様々な建設物を施工し、土木工事の分野では道路、橋、トンネルなどの公共事業を数多く手掛けている。過去には国立競技場の銅像などの芸術作品を移設する工事も行った。
村本建設の『ものづくりチャンネル』
面白いものづくりを応援したい! という想いから、村本建設が大学生とコラボして、ものづくりをテーマにした記事を掲載しているサイト。