9月28日、早稲田大学戸山キャンパス学生会館の地下二階で、早稲田大学を中心とするファッションサークル、早稲田大学繊維研究会の一年生によるファッションショー『宿す、宿る』が開催された。テーマは「孕む(はらむ)」。学生デザイナーたちは、内なる可能性が外に表現されることで自己と他者、内と外の境界があいまいになる瞬間を探求し、成長、変化、創造といったプロセスを表現した。
主催した早稲田大学繊維研究会は、1949年に創立。「ファッション業界を取り巻く現状に対して、ファッションを媒体として批評を行う」ことを軸にルックのデザインから制作までの全てを部員自ら手がけるファッションショーやインスタレーションを行っている。早稲田大学の学生だけでなく、服飾専門学校や美術大学の学生も所属しており、様々な分野で活躍するデザイナーを多く輩出していることでも知られている。
会場に入るとまず、来場者の和気あいあいとした様子があちこちで見られ、堅苦しいというより和やかな雰囲気に驚く。案内された席に着いて辺りを見回すと、来場者に幅広い年齢層が見受けられ、このファッションショーに多くの人が注目していることが感じとれた。
座席はU字型に並べられており、モデルが歩くコースが自然と浮かび上がる。対面する席との距離の近さから、どの席からでも目の前で作品を楽しむことができると直感的にわかり、気持ちが高揚した。その空間でこれからどんな作品が見られるのか、どんなファッションショーになるのかと思いを巡らしていると、あっという間に開始時刻になり、開演を知らせる音楽が流れ始めた。
幻想的な音楽に会場は静かになり、程よい緊張感が生まれる。そして、会場を二分する黒い幕の間から、作品を身にまとったモデルがゆったりと現れた。その緩徐な動きと木漏れ日のようなライティングは、強張った来場者の体を軽くする。
ショーは「孕む」というテーマを、「種が芽吹く瞬間」や「命の誕生」「アイデアが形になる過程」などの観点で再考したもので構成されている。ショーでは内なる可能性の表現や、内と外の境界が曖昧になる瞬間の探求そのものを視覚的に表現。ルック全体としては、透け感のある素材や、花とハートのモチーフが多く取り入れられていた。
透け感のある素材は、内側の衣服や肌が見えることで、内なる可能性が外に現れる様子を象徴しているのだろうか。これは、デザイナーの意図する「内と外の境界があいまいになる瞬間」を直感的に伝えているようだった。
花のモチーフからは、成長と変化を感じた。花は、まさに成長と変化のプロセスそのものである。そしてそのモチーフからは、デザイナーたちの内なる可能性が開花している様子が感じ取れた気がした。次々と作品が現れ、来場者は一つの作品が目の前を通り過ぎたら次の作品に注目することが多かった。 しかし、パールと胸元の花のモチーフが印象的な、designer : Ran model : Rinの作品に来場者は他の作品よりも長く、首の可動域と視野の範囲の最大限に目で追い、息をのんだ。
ハートのモチーフは、自己と他者の関係性を表しているのだろうか。ハートは愛や感情の象徴であり、内なる感情が外に表現されることで、他者とのつながりが生まれる瞬間が表現されているように思う。
全体として、このファッションショーは、テーマとデザインが見事に融合し、来場者に自己と他者の関係を再考させ、抽象的なこの「孕む」というテーマは何なのかを考えるきっかけを与えるものだった。学生デザイナーたちのテーマに対する探求と創造のプロセスがルックを通して巧みに表現されており、ショーの流れはまさに、彼らのインスピレーションの軌跡を追っているようだった。
ファッションショーが終わり照明が明るくなると、来場者から感嘆が漏れた。そして一瞬の静寂が訪れ、ショーが始まる前の空気に戻っていく。
その後、作品に関わった早稲田大学繊維研究会の人たちが客席に登場し、来場者と交流を行うネットワーキングが催された。ファッションショーの時とは一変、無邪気な表情や来場者との嬉々とした会話が聞こえ、そのギャップに彼らのプロフェッショナルな面が垣間見えた気がした。
大学一年生というまだデザインの道を歩み始めたばかりの段階で、この壮大で深遠なテーマ「孕む」と向き合い、作品として一つの形に残す彼らの気魄は凄まじいものだったに違いない。来場者に学生デザイナーのテーマに対する思考の過程を疑似体験させ、ファッションショー終了後もどこか重たい余韻に浸ってしまうほど深い印象を与える作品を作り上げたことは、デザイナーたちの創造力と努力の結晶である。彼らの作品は、内と外の境界があいまいになる瞬間を見事に捉え、そこから今回のファッションショーによる自身の成長とこれからの無限の可能性を訴えかけるような強いエネルギーに満ちていた。彼らひいては早稲田大学繊維研究会の今後に期待が膨らむ。
<繊維研究会プロフィール>
1949年創立。約100人が在籍する国内最古のファッションサークル。卒業生には「アンリアレイジ」の森永邦彦、「ケイスケカンダ」の神田恵介をはじめとした多くのデザイナーを輩出。「ファッション業界を取り巻く現状に対して、ファッションを媒体として批評を行う」ことを活動の軸としており、その発表の場として、ルックのデザインから制作までの全てを部員自ら手掛けるファッションショーを毎年行っている。
各種SNS:X(旧Twitter) @sen_i_lab
Instagram @seni_1949
HP:早稲田大学繊維研究会
<繊維研究会プロフィール>
1949年創立。約100人が在籍する国内最古のファッションサークル。卒業生には「アンリアレイジ」の森永邦彦、「ケイスケカンダ」の神田恵介をはじめとした多くのデザイナーを輩出。「ファッション業界を取り巻く現状に対して、ファッションを媒体として批評を行う」ことを活動の軸としており、その発表の場として、ルックのデザインから制作までの全てを部員自ら手掛けるファッションショーを毎年行っている。
各種SNS:X(旧Twitter) @sen_i_lab
Instagram @seni_1949
HP:早稲田大学繊維研究会
〈関連情報〉
早稲田大学繊維研究会2024年度ショー「透き間・仄めき」
開催日程:12/22(日) 会場:代官山ヒルサイドプラザ
コンセプトは「みえないもの」に焦点を当てること。タイトルの「透き間・仄めき」は、のぞきこむ「隙間」ではなく、ふとした瞬間に目に入ってくる「透き間」と、漢字そのものに「透き間」感を持つ「仄めき」が掛け合わされている。
予約フォーム:繊維研究会『透き間、仄めき』観覧予約