さまざまなジャンルのチャンネルが勃興する今日のYouTube。その中で「サブカル解説系YouTuber」としてユニークな立ち位置を確立しているのがおませちゃんブラザーズだ。エンターテイメント性に富みつつ質の高い情報を発信する彼らの動画はコアな人気を集めている。チャンネルは元放送作家のわるい本田さん(中央)、一流ラーメンチャンネル「SUSURU TV.」を運営する矢崎さん(右)、アーティストとしても活動する池田ビッグベイビーさん(左)の三名を中心に運営されている。
「20代は仕事で死ぬほど悩んでいて、29で仕事をやめて1からYouTubeをやり始めました。『好きなことをして生きていく』って本当に実現可能なのか。仕事に悩む人の代わりに挑戦して勇気づけたい。悩めるアラサー…僕はパラレルワールドのあなたです。」(わるい本田Twitterより)
https://twitter.com/omasehonda/status/1133668508720517120?s=20
彼らはどのような想いを持って「好きなことをして生きていく」のか。前後編にわたってお届けするロングインタビュー、前編のテーマは「サブカルチャー解説者の側面」。
——YouTube上でどのような活動をされているのか教えてください。
本田:サブカルチャーと呼ばれているものについて10分前後で、解説……というか「感想以上考察未満の内容で喋ろう」という趣旨で動画を撮っています。
——三人にはサブカルチャーの中でも得意なジャンルがあると思うのですが、そういったジャンルとの出会いとそれとどのように触れ合ってきたかについて教えてください。
矢崎:僕の場合はアイドルです。
中学一年生の時にBerryz工房というアイドルにハマりました。
男子校生だったので、女性というものをアイドルでしか知れなかったんですよね。
恋愛とか部活とか、そういうものに夢中になるのが学生時代だと思うんですけど、僕は男子校生だし帰宅部だったので、夢中になるものがありませんでした。
そんな時にアイドルに出会ったんです。
他に何もないからこそ熱くなれて、生活の一部になっていきました。
高校生の時はバンドを始めたのでそっちに傾倒しちゃったんですけど、大学に入って自分で音楽を続けていくうちに「あのアイドルの楽曲ってすごかったんだな」って改めて気づくようになって。
そこからアイドルを見る幅が広がって、アイドルって生き方も楽曲もすごく面白いなって感じるようになりました。
池田:映画かなー。
私が初めに出会った映画は『スタンド・バイ・ミー』ですね。
中学受験して私立の中学校に入ったんですけど、周りの友達は地元の公立の中学校に行く人が多かったから「あー寂しいな」って思ってたんですね。
ちょうど小学校を卒業する前に『スタンド・バイ・ミー』を観て、「うわー、今すごく仲良い友達ともバラバラになっちゃうんだ」ってなって。
自分と重なる部分もあって「感動しちゃうな、映画ってすごいな」って思いました。
矢崎:そこからどうやって映画全般を観るようになったの?それこそ大学一年の頃映画サークルに入ろうとしてたじゃん。
池田:きっかけは『スタンド・バイ・ミー』だったんですけど、中高生の時はちょっとインディー系の邦画にハマっていました。
でもそういう作品について話せる人が周囲にいなかったので、mixiのオフ会でおじさんとかと会って映画の話をしていました。
そこでおじさん達と映画の話をするの面白いなって思って。
大学生になったら映画サークルに入って同年代と映画の話したいなって思うようになりました。
結局、映画サークル辞めさせられちゃったんですけど笑。
——洋画もお好きなイメージがあるのですが、何かきっかけはありますか。
池田:洋楽と連動して好きになっていったと思います。
15歳くらいのとき、最初にNirvanaがガツンときて、そこからアメリカの文化に興味を持つようになりました。
音楽を聴いているとその音楽が生まれた背景が気になって、例えばグランジだったら「シアトルってどんな感じなんだろう」って思うようになりました。
そこで洋画、特に90年代のアメリカ映画の風景が、自分の聴いている音楽とリンクするようになって好きになりました。
本田:僕はあんまり動画では紹介してないけど音楽なんですよね。
高校の時軽音部に所属していたんですけど、ずっと2位のバンドだったんです。
定期演奏会で文化祭の一番いい出番を争ったりするときの順位が。
本田って人生至る所でずっと2位なんですよ。
中学の陸上部でもそうだった。
いいポジションではあるけど、なんか悔しいなって気持ちを抱えてたんですよね。
ある定期演奏会で、ナンバーガールを演奏する機会があったんです。
その時にふと、採点されることに対して「別に順位どうでもいいな」って思えたんですよ。
ヒエラルキーからの脱却というか。
1位は顧問の先生が好きなDeep PurpleとかThe Rolling Stonesをやってるバンドだったんですが、「俺はこの曲が好きだから別にいいし」って思えたんですよね。
サブカルチャー好きな人ってそういう考え方の人多いじゃないですか。
「メインストリームでやってる奴いるけど、俺はこれが好きだから、自分はこれでいいんだ」みたいな。
自己を確立、とまでいうとおおげさですが、満足感を得られた体験でした。
もう一つエピソードがあって、他の高校のバンドがうちの軽音部の部室に遊びにきたことがありました。
そのバンドはオリジナル曲を作っていて、めちゃくちゃかっこよかったんですよ。
うちの軽音部はコピーを上手くできる人間が偉い世界だったんですけど、そこに新しい概念が入ってきてすごくかっこよく見えた。
その人たちがBattlesとか当時のインディーシーンの音楽を聴いてる人だったんですよ。
その人達に新しい世界を教えてもらって、どんどんサブカルチャー的なものにハマっていった記憶があります。
池田:面白い話だなぁ。
——本田さんは自分の好きなものを貫き通すことで、当時の集団内でのヒエラルキーをぶっ壊すことができたんですね。
本田:ぶっ壊してはないんだけど、ぶっ壊す気持ちになれたみたいな。
いかにギターを早く弾くかで争っていたところに、こういう道もあるんだなって気づいたのが最初かもしれないですね。
矢崎:そんな思いを抱いて、大学時代に作った曲が一曲だけ(※)と。
本田:そうなんだよ笑。そこは曲を作る才能ですね。
(※矢崎さんと本田さんは同じバンドサークル出身。本田さんが大学生時代に制作した一曲はコチラmy-last-damn-weather)
——サブカルチャーという言葉は非常に曖昧で、各々に自分の定義があるようなものだと思います。それぞれの考えるサブカルチャーの定義について教えてください。
矢崎:あえて好きって言わないと伝わらないものだと思ってはいる。
『ワンピース』とか『スラムダンク』とか、みんな好きなのが当たり前だから、わざわざ好きだと言う必要のないものはメジャーなものだと思っています。
反対にあえて僕はこれ好きですって言わなきゃ伝わらないものがサブカルチャーって気はしてる。
本田:矢崎と似てるけど、多数派の考えを疑っているというか、「それ違うんじゃね」って言ってる変な奴がサブカルチャーだと思っています。
メインカルチャーへのカウンター的な存在。
その反論の正しさはあんまり関係ないと思ってるんですよ。
そういう存在がみんなの外側にいてふっと救ってくれる。
例えば教室とかで先生がブチギレてるとするじゃないですか。
怒られてシュンとしている方がメインカルチャーの人で、そこで「いや、あの教師ちょっとハゲてね」とか言ってるやつがサブカルチャーの人。
その人間のおかげでクラスがちょっと明るくなる。
そういう存在が必要だと思うし、僕は好きなんですよね。
矢崎:すごくいい例えだ。「救急車うるせぇな〜」とか思ってるやつか。
本田:そうそう、正論じゃないんだけど場がふっと明るくなったり別の視点が生まれたりするじゃないですかそういう時って。
サブカルチャーという存在は、そういう力を持っている気がしますね。
池田:作品を鑑賞したときに、金の匂いより先に作者の意図や思いとかが伝わってくるものがサブカルチャーですかね。
確かに全部お金のためにやっているものだけど、自分が鑑賞した時にどう感じるかによります。
僕の中では売れるのを狙ってたいらサブカルチャーにはあんまり見えないですね。