「サブカルチャー解説系YouTuber」として活動する、おませちゃんブラザーズの想いを深堀るロングインタビュー。前回は、サブカルチャーを題材に動画を投稿するチャンネルとしてのこだわりについて伺った。
「サブカルチャー解説者の側面」おませちゃんブラザーズ【前編】
後編となる今回のテーマは、「職業YouTuberとしての側面」。信頼されるチャンネルになるためには。理想とする視聴者との関係性とは。インタビューから、彼らのチャンネルが熱量の高い支持を集めている理由が浮かび上がってくる。
おませちゃんブラザーズ:わるい本田さん、矢崎さん、池田ビッグベイビーさん、青柳さんによって運営されているYouTubeチャンネル。チャンネル登録者数は六万人超(2021年11月現在)。マンガ、映画、音楽をはじめとしたサブカルチャーに関する動画を投稿している。カルチャーへの愛とエンターテイメント性が随所に散りばめられたおませちゃんブラザーズの動画は、視聴者から絶大な支持を受けている。
ーーチャンネル内での役割分担について教えてください。
本田:編集は本田と青柳、演者が本田と矢崎と池田、ネタ出しはみんなでやっています。
サムネイル作成とメール対応、SNS運用など細かいところは本田がやっています。
(※1 青柳さんは本田さん、矢崎さんと同じサークル出身の友人。)
ーー複数人で活動されているということで、一人でYouTubeをやる人とは違うメリットはありますか。
矢崎:動画の中で立場を分担することができます。
三人のうち一人が何かを言って、それに対して二人が視聴者の立場からリアクションできる。
YouTubeというプラットフォームの中で重要な「共感」を視聴者から引き出せるように、ツッコミを入れたり池田のギャグに笑ったりしています。
視聴者の代弁者的な存在ですね。
本田:共感を若干リードしている状態が理想だよね。
観ている人がストレスを抱かないように。
あと解説に茶々を入れる存在がいると、解説者の熱をさらに引き出すこともできる。
三人がそれぞれの役割を果たすことで動画のバランスが取れると思っています。
ーー本田さんの作られるサムネイルは一定期間ごとにサムネイルの様式が変化していますよね。スタイル変遷の理由はどういったものなのでしょうか。
本田:いちばん迷ってるところなんですよね。
サムネイルの中で取り扱うものを強調してみたり、演者の顔を載せてみたり。
テンプレートとなるスタイルを確立したいんですけど、何日か前に作ったものがだんだんダサいと感じてきてしまうんですよね。演者の表情も、取り扱う作品とかアーティストの画像も、キャッチーな文言も入れたい。
さらにデザインで他のYouTuberと差別化したいですね。
恥ずかしいですけど、今までの変遷は試行錯誤の結果っていう感じです。
最近の画面上部に文字が羅列してあるサムネは、映画『絞殺』のポスターを参考にしたんですよ。
サブカルチャー感があって目を惹くデザインが好きで。羅列してある文字はデザインとして入れているので読まなくても良いものなんです。
でもスマホでこのサムネを見るときはごちゃごちゃして難しく見えちゃうっていう問題がありますね。
どの時期のものが好きとかありますか?
ーー私は背景がシンプルな単色の時が好きですね。
本田:余白主義の時ね。
YouTube上のサムネってごちゃっとしたものが多いから、逆に余白で目立てると思ったんですよ。
でも文字が小さくなっちゃうんですよね。
——あとは背景が黄色で真ん中に写真というテンプレートの時も好きですね。
本田:黄色時代ね。
観ている人が習慣化できて、テーマがわかりやすいと思ったんだよね。
でもデザインが変わらなすぎて新着動画に気づかなかったっていう意見もありました。
色々試している最中なので、進化中って感じですかね。
——マネタイズについて当初の目標と現在の到達点、また修正点を教えてください。
本田:初期の目標は全然達成できてないよね。人生変えようって始めたのに。
池田:YouTube始めた時に本田さんはお母さんのために銀座にマンション買うっていう目標を立てていました。
本田:笑。それは今でもそうですよ。まだできてないけど。
池田:月収は本田家の家賃は超えたよね。
本田:本田家の家賃は超えてるね。
問題点としてはまず動画の本数が足りてないと思います。
もっと本数出せばある程度の金額はいくと思うんですけど。
池田:やっぱり登録者数の割に収益は少ない方なのかな。
本田:少ないとは思うよ、多分。
これまでは基本的に月7~8本で10本出してたらいい方だったもん。
最近はもうちょっと出せるようになったと思います。
まずはちゃんと動画を定期的に出して、あとは広告収入だけじゃない収益の方法も探しています。
ーー投稿頻度についてお話が出てきましたが、動画のクオリティにも力を注がれていると存じます。高い頻度で動画を公開していかなければならない中、動画の質との折り合いについてどのように考えられていますか?
本田:どっちも大事ですよ。
両方をクリアできる体制は作るべきで、どちらかが欠けていたら”職業YouTuber”としてはダメだなとは思いますよ。
極論どっちかを優先するとしたら、クオリティの方を優先しますね。
「この動画これじゃあ今日出せねえ」ってなってアップロードをやめたのは何回かありますね。
でもどっちもやっていける体制は作るべき。
四人でやってるので無理ではないと思います。
池田:僕から見たら本田と矢崎はクオリティにこだわりがあると思います。
二人は基準が高いと思います。
本田:ただでさえ未完成で技術も素人なのに、自分が納得してないものなんて出したらめちゃめちゃ笑われますよ。
矢崎:そうなんだよ。
でもね、編集のミスとかに気付く人って本当に少ない。
例えば余白の幅が左右で違ったりとか。
そういうのって視聴者さんからしたらどうでもいいんだなって思う。
本田:そうなんだよな。マスを想定したら無視していいものなんだよな。
矢崎:ただ俺は自分たちの動画を見て、小さなミスにたまに引っかかったりする。
本田:そういうのに気づける人たちに笑われたくないんですよ。
矢崎:それにおませちゃんの視聴者には気づく人が多い気はしている。
本田:どっちかといういうとね。デザイン関係の仕事している人とかね。
矢崎:だから本田には編集を頑張ってほしいし、実際頑張ってると思う。ありがとうございます。
池田:すごいクオリティだと思うな俺は。
本田:いやそんなに自画自賛するものではないから笑。
矢崎:たしかかにクオリティがすごく高いわけではない。
でも基本的に細かい気遣いができてるなとは思う。
だからできてない時は目立つ。
客観的に自分たちのチャンネルを見た時にそういう姿勢が求められてると思うから。
本田:僕らの好きな作品が細かいところまで気を配っているからっていうのもあります。
そういった作品と同じように、視聴者を舐めずに、信頼やリスペクトを持って頑張ってます。
——企画の選別基準や方法について教えてください。
本田:企画を決めるうえで「信頼」と「数字」という二つのポイントを基準にしています。
視聴者から信頼が得られそうな動画というのは、「この作品を動画にするなんて!さすがおませちゃんブラザーズ、信頼できるわ」みたいに思われるもの。
数字が取れそうな動画というのは、流行りモノや人気のあるものを取り上げて、再生回数を狙ったもの。
どっちかのポイントが、ある一定の基準を満たしていたらやろうっていう感じですね。
これは数字は取れないけど、信頼度はめちゃめちゃ高まりそうだから動画にしようって決まることもあります。
企画選定の流れは、今は週一で会議をしてみんなで案を出し合ってそれらをブラッシュアップしたうえで撮影日や投稿日のスケジュールを決めています。
一人一本ずつ、一日に三本取ってそれで一週間を繰り返すっていう体制に最近なりました。
それで動画の投稿頻度が上がったんだよね。
——動画の種類は、新規層獲得を見込んだオフェンス枠と既存の視聴者に信頼してもらうディフェンス枠に分かれるとのことですが、その比率はどのくらいですか。
本田:オフェンス多めですね。
でも再生数が上がるからといって好きじゃないジャンルのものはやらないので、全ての動画はディフェンスの基準も満たしたものです。
信頼度を損なわないものであることは絶対条件です。
そのなかでもオフェンス寄りなもの、例えばチェンソーマンの動画はオフェンス寄りですね。
「このマンガがすごい!」でも一位になったようにみんなの中でめちゃめちゃメジャーなものだけど、実際に面白いし、おませの視聴者にも受け入れられているものだと思ったので。
そういうものをどんどん発見して動画を作りたい。
見つかり次第優先的にやるっていう感じではあります。
——それぞれが担当された動画の中で特に新規層獲得をねらったと感じた動画はなんですか。
矢崎:ジョジョの動画はオフェンスですね。
ジョジョを扱えばとりあえず伸びるよって二人を説得しました。
本田:伸びたね、10万再生。
矢崎:伸びるから手出したって感じです。
まあ実際好きなんですけどね、僕は。
二人が知らな過ぎたので初見でスタンド名を予想させるクイズ形式の動画にしました。
——池田さんのNujabesの動画が伸びた印象があるんですけど、視聴回数を見込んでいたのですか。
池田:あれはディフェンス枠のつもりでしたね。
数字を捨ててチャンネルの信頼性を高める目的を持っていたのでびっくりしたし、今でもなぜ伸びたのかわからないです。
思いがけずみたいなパターンもあります。
本田:わかんないよね、全然。
——他にもオフェンス枠の動画はありますか。
矢崎:「ハロヲタが〜」ってつく動画は基本的にオフェンスで考えています。
最初は自分が好きなことを喋ってる感じだったんですけど、意外と高評価をいただけています。
ハロヲタの目線で『あの頃。』っていうアイドル映画を解説したり、坂道グループをどう見ているかを話したり、立場を切り口として使うのが面白いかなと。
自分は視聴者の中でそういうポジションを確立できているかなと思っています。
池田:僕はゆらゆら帝国の動画ですね。
ゆら帝ってファンの間で神格化されている存在だから踏み込むのに勇気が必要でした、でも動画にしたら数字は伸びるだろうなって思って作りました。
本田:池田はもともとゆら帝がすごく好きだからこそ、動画で取り扱う難しさに気づいていたんだけど、その怖さを乗り越えさせたのは再生回数だよね。
——その時にバズっているコンテンツをどのくらい取り扱うか方針はありますか。
本田:できるだけ新しくていいものを取り上げたいです。
ただそういうものは頻繁に世に出てくるわけじゃないですけどね。
視聴者から「このチャンネルを逐一チェックしておいた方がいい情報が手に入るな」って思われるためには最新のものを取り扱う必要があると思っています。
——視聴者との理想的な距離感や現状どのような関係を築いているのかについて教えてください。
本田:理想はゼロ距離の関係ですね。
池田:友達だと思って欲しい。
矢崎:夢で遊べたらって思います。
本田:かっこいい言い方したけど会いたくないってこと?笑
矢崎:僕も他のYouTuberの動画見ていてその人たちと夢で遊んだりするんですよ。
それができるくらいの距離感。
それって動画の中で私生活を出してくれているからだと思うんです。
それくらい親近感を抱いてくれたらなって思います。
夢で遊べたらいいですね。
本田:YouTubeのアナリティクス的にも画面越しの友達っていう距離感が正解だと思うし、僕たちもそうだと思っています。
なんの尊敬もしないで欲しいですね。
してくれるのは嬉しいですけど、尊敬されるような人間じゃないですから。
視聴者の人と道で初めて会ったときでも「よっ!本田!」って言って欲しいですね。
それは言い過ぎかもしれないですけど、そのくらいの軽い感じで会いたいな。
そのくらい親しみを持ってもらえるのがYouTuberとしては正解だと思います。
芸能人とかアーティストとは違うので。
矢崎:以前Amoung usっていうオンラインゲームをするときに人数が足りなくて、インスタで募集したら何人か視聴者さんがきてくれたんですよ。
一緒にゲームができる距離感がいいですね。
本田:そうだね。
そのくらい緩い感じの繋がりがいいね。
矢崎:それこそあんまり絡んだことはないけど、同じサークルに所属してる人みたいな。
本田:それめっちゃちょうどいい。
フジロックみんなで行きますよってときにいるなっていう感じの。
——現状そういった関係性の構築を達成できていると感じますか。
本田:いやーー、会えてないからなあ。
矢崎:イベントとか打ててないからね。コロナの影響とかで。
池田:俺は早くやりたいよ。
——サブカルチャーを題材として動画を作る際に、評価や考察ではなく解説というスタンスを取られている背景を教えてください。
本田:解説っていうのも偉そうで、最近なんていうべきかまた悩んでるんですよね。
矢崎:語るっていうほど語ってない。
本田:語るっていうのもずっとあんまり好きじゃないんだよなあ。
同じファンが嫌悪感を抱くと思ってて。
池田:紹介っていうのがしっくりくるけどな。
矢崎:でも紹介って俺らのやってることより浅いものだと思うんだよ。
本田:うまい言葉が見つからないんですけど、僕が今一番しっくりくるのは「〜について喋ります」なんだよな。
なんの意味合いも持たずに、シンプルに「喋ってる」と受け取って欲しい。
どういうことかというと、「作品を受け入れて楽しんでいる感性を、同じ目線で共有したい」って思ってるからなんですよね。「僕はこの部分をこう楽しんだ」っていう言葉が、誰かが作品を見るときにヒントになるかもしれない。
ならなくても、それはそれで良い。
矢崎:でもやっぱり解説が近いんだよな。
文庫本の末尾にも「解説」って他の人が書いた文章が載ってるじゃん。
俺はその感覚でやってる。
池田:いいところに目つけるなあ。
本田:あれいいよね。その作品以外のことに触れたりもするもんね。
矢崎:自分の実生活を絡めて話したりとかね。
本田:「解説」って言うとき、そのニュアンス伝わらないからな。
なんかいい言葉があればいいんですけど。
池田:本の方が変えてくれればいいのに。
本田:考察も嫌なんだよな。
これも上からになっちゃうし、オタクほどそんなに知識がないから。
矢崎:あくまで一YouTuberっていうところですね。
みんなと同じ目線だよって。
本田:今は視聴者の友達になるだけで精一杯なんですよ。
「僕らは友達です。敵じゃないです」って。
だから考察っていう言葉はあんまり使えないかなあと思いますね。
矢崎:まだ迷ってるんです。
解説っていう言葉すらしっくりきてないけど、ニュアンスが伝われば。