〇相対性理論/ハイファイ新書

〇相対性理論天声ジングル

相対性理論に出会ったのは大学一年の夏の終わり頃だった気がする。リンクスの同期に好きそうだからと勧められて初めて聴いたその音楽は、僕の心象風景に新しい街を作りだした。他の音楽にも言えることだが、僕にとって「私を構成する」音楽とは「僕の心象風景を作りあげている」音楽のことである。相対性理論が作りだす街は、都会の様相を呈しながらもいかなる時空間の制約を受けない。近未来にいながら大昔にいるような、地球にいながら宇宙にいるような、人波に飲まれながらそこには誰一人いないような錯覚を起こしてしまう。彼らの音楽の中ではブラウン管も、恐竜も、25世紀もすべてが今ここにある。『ハイファイ新書』は全体的にメロウな雰囲気を纏いながらも、それをただのゆるふわでは終わらせない鈍痛のようなメランコリーがあるし、『天声ジングル』は限りなく宇宙に到達しようとするときの真空状態のような寂寥感がある。各アルバムからは「テレ東」と「FLASHBACK」を推したい。「FLASHBACK」を真夜中の台所で聴くとき世界にはもう僕しかいないし、「テレ東」は本当のところはダンスチューンなんだと思う。どうしても外せなくて一アーティスト二枚抜きした。

〇スピッツ/三日月ロック

おそらく今の20代前半には自分たちの親が聴いていたという理由で幼いころからスピッツに馴染み、影響を受けた人が多いだろう。自分もその一人である。『三日月ロック』はスピッツにおける一つの「はざま」のアルバムだと思っている。それ以前のスピッツはいくつか大ヒットするような曲を作ってはいるのに、どこか退廃的な風景が広がっていて、死とセックスの匂いが立ち込めた夢想的な音楽が支配的だった。もちろんその歌詞世界とエッジの利いたサウンドも大好きなのだが、『三日月ロック』以後のスピッツは良い意味で現実味を帯びてきた気がする。そのバランス加減が個人的に気に入っているし、そして何より題名通りのロックな音が鮮烈でたまらなくかっこいい。触れるだけで傷ついてしまいそうなほどに透明な草野マサムネの声にも耳を澄ませてほしい。鋭くて孤独なスピッツの音楽が僕を掴んで離さないから、深夜の山手通りでずっとかけ流している。「夜を駆ける」と「ガーベラ」を推したい。

〇サカナクション/ DocumentaLy

上京を経て思い入れが強くなったアルバム。サカナクションの電子音楽とロックを融合したモードなサウンドや都会的な歌詞世界は、元々僕の中にあった、東京に対する幻想じみた強い憧れをずっと支えている。このアルバムにある「アイデンティティ」でも「モノクロトウキョー」でも「years」でも、大都会にいる自分をイメージしながら聴くが、そのときの僕はいつも一人だ。湧くように人が住み、蔦が這うようにビルが立ち並ぶ街に滲んだ、寄る辺ない一人称の孤独みたいなものがこの『DocumentaLy』には詰まっていると思う。実は『834.194』と本当に迷った。デビュー作『Go To The Future』から続く都市性と望郷の命題に回帰してさらに進化させたところにポップとの融合を図っているのは割と恐ろしいので是非こちらも聴いてみてください。

〇Indigo la End/夜に魔法をかけられて

題名通り夜専用みたいなアルバムだが、こんな音楽を作らせたらインディゴの右に出る者はいないんじゃないかというくらいの出来だと思う。恋愛にまつわる歌詞の出来もさることながら、川谷絵音の柔らかくも突き刺さる声と長田カーティスのギターの表現力がこのアルバムを名盤足らしめている。そんなことを言っておきながら僕は自分の恋愛について考えるときにインディゴをあまり聴いていない気がする。恋に夢想するときに聴いているのかもしれない。それはつまり、自分が経験した恋の苦しみではなく自分ができなかった恋への憧れである。おすすめは「彼女の相談」。

〇Perfume/Future Pop

Perfumeも割と小さいころから聴いていたのだが、アルバム単位で聴くようになったのはつい最近のことだと思う。中田ヤスタカは自分の音楽観に多大なる影響を与えているに違いないのだが、そうやって考えてみると10年ちかく自らの意匠をほぼ変えることなく活動しているのは本当にすごいことだと思う。この『Future Pop』は、元々音作りから未来志向の強い音楽であったがその方向へさらに突き抜けていて、その一方で平成で流行した構成を踏まえているせいかどことなく懐かしさも感じるアルバムである。アルバム内に「Let Me Know」という曲があるのだが、ある日恩田陸の『麦の海に沈む果実』を一晩で読んだときに延々とリピートしていたら、その曲を聴くだけで小説内の情景が浮かび上がってしまうようになった。曲も本もおすすめです。

〇宇多田ヒカル/Fantome

予備校に通っていた頃、授業に来るはずだった数学の先生が来ない日があった。そのとき先生は、予備校近くのビジネスホテルで心臓発作で亡くなっていた。その先生の死があまりに唐突で、ショックで、どうしても悲しくて、その夜はずっと「人魚」を聴いていた記憶がある。このアルバムそのものがどこかでぼんやりと死の影を閉じ込めて(それが宇多田ヒカル本人の歴史と関係していることは間違いない)、しかしそれは必ずしも暗い影というわけではない。それを認めたときに、人間が生きていくなかで心に宿す様々な影を感じ取ることができるアルバムだと思う。他には「俺の彼女」と「2時間だけのバカンス」を推したい。

〇Tempalay/21世紀より愛をこめて

大学に入ってからこういう音楽を聴くようになった。彼らが音楽の中で表現しようとしているのは「心地よい気味悪さ」という絶妙なポイントだが、それに成功していて作品に強い中毒性が生まれている。小原綾斗がウルトラQのオープニングみたいな気味悪さを再現したいと言っていて、おかげで幼少期にウルトラマン狂いを患っていた僕とすこぶる相性が良いのかもしれない。特に「そなちね」は、MVも含めて素晴らしい作品だと思う。夏の屈託のない青空と乾いた空気がちょっと嫌になるのでぜひ見てみてほしい。「21世紀より愛をこめて」、彼らが音楽を届けているのは過去と未来どちらなのだろうか。他には「脱衣麻雀」がおすすめだが、このアルバム外で「大東京万博」もおすすめしたい。みんなで『AKIRA』観てケチャダンスしましょう。

〇Manuel Tur/Es Cub

高校生のときの、テクノとの出会いの音楽だったと思う。サカナクションの「INORI」を聴いてからテクノに目覚めたときに山口一郎が薦めていたので聴いてみるとミニマルでクールですごく惚れこんでしまった。このアルバムを機に、YMOのようなテクノポップや海外の激しめのEDMも聴くようになった。中高と吹奏楽部で打楽器をやっていた身からすると、テクノのリズムがそもそもとても痺れるもので、BGMとかではなく一点集中という感じで聴いていることが多い。早くリキッドルームで踊りあかせる日来ないかな。そうじゃなくてもマンションのワンルームで今日も気持ち悪く一人体を揺らしているのだが。

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