テレビコマーシャル、電車内広告、インターネット上の動画広告など、私たちは生活のさまざまな場面で「女性は美しくなければならない」というメッセージを刷り込まれている。しかし、その「美しさ」は非常に画一的である。痩せていて、肌がきれいで、二重で、毛は処理されており、若い……。バラエティ番組によって培われたものなのか、これらを満たしていない女性は笑いものにして良いという風潮が、この社会には確実にある。このような社会で、果たして私たちは自ら「美しくなりたい」と欲しているのだろうか?プラスサイズモデルとして活動し、ボディポジティブ(註1)についての発信を行う吉野なおさん。自分らしく生きる彼女の姿勢から、「美しさ」に対する欲望を見つめなおし自分自身と向き合うための方法を探る。


内面化している「美しさ」に気づく

——今の日本では、「女性は美しくあるべき」という風潮がいまだ強いですよね。その影響で、「痩せたい」と過度なダイエットで体調を崩したり、整形や脱毛などに多大な出費をしたりすることもあります。このような状況をどのようにお考えですか。

「女性はこうあるべきだ」という価値観は、美容業界などによって、商業的に生み出されたという側面があると思います。例えば脱毛について検索したら、脱毛に好意的な記事がたくさん出てきます。でもこういった記事は、脱毛クリニックのPR記事であったりすることも多いです。「こんな見た目になりたい」と自分で思ったつもりでも、実は大人が裏で糸を引いていて、美容業界の戦略に巻き込まれてしまっているんですよね。

——こうしたなか、ボディポジティブが徐々に広まってきたように感じます。

まず、ボディポジティブについて勘違いしてほしくないことがあります。ボディポジティブについて検索すると、「ボディポジティブ 言い訳」などと出てきたりします。不摂生への言い訳と捉えられたり、太っていることが一番美しいという意味だと誤解されたりしています。でも、それは違います。自分の体を卑下したり、否定したりせずに尊重することがボディポジティブです。どんな体であっても肯定するということです。ダイエットしてはいけない、という話でもありません。あくまでも、自分の体にコンプレックスを抱いている人のための考え方なんです。

——吉野さん自身も摂食障害を経験されたとのことで、「美しさ」に対する欲望に悩まれた過去があるかと思います。そんななか、ボディポジティブと出会ってどのような変化がありましたか。

言葉に出会って変わったというよりは、自分で変わろうと思った出来事があって。自分の体を肯定して良いと気づいたのは、「ボディポジティブ」という言葉を知るよりも前のことでした。当時、私は小さな出版社でアルバイトをしていました。そのアルバイト業務で、何千人何万人分のプロフィール写真をトリミングしているうちに、「ああ、人ってみんなそれぞれ違うんだな」と思い始めたんです。同じ身長体重の人であっても肉付きが違っていたり、痩せている人もいれば太っている人もいたりと、本当にいろいろな人がいました。私がそれまで太っている人に抱いていたイメージは、ダイエット広告のビフォーの、ネガティブなイメージでした。でもプロフィール写真だから太っている人も明るく映っていて。「あれ、私、ずっと太ってるってネガティブなことだと思い込んでたけど、それって社会の価値観を内面化してたのかもしれない」と気づいたんですよね。「太ってても明るく生きてる人もいるかもしれない、自分を卑下して生きることってすごくもったいないことなんじゃないかな」と。ずっと25歳くらいまで自分の体型を否定して生きてきたけれど、その考え方を辞め、自分を受け入れてみることにしました。そうして、カロリーを気にする食べ方よりも自分の食べたいものを食べるようにすると、ずっと悩んでいた過食の症状もなくなっていきました。心が満足できる食事を続けていくうちに、痩せようとしていた時期より自然と体重が落ちるという予想外のことも起きました。「過食症の自分」が生活の中心ではなくなり、ダイエットや体重以外のことに集中したり、目を向けられるようになりました。自分の存在を肯定して生きやすさを感じられるようになったことは大きな発見でした。それから、過去の自分と同じように体形で悩んでいる女性にこの経験を伝えられたらいいなと思うようになりました。

——摂食障害の克服が現在の活動の出発点となったのですね。では、プラスサイズモデルとして活動するきっかけは何だったのでしょうか。

ラ・ファーファ(註2)という雑誌が創刊されることになり、読者モデルを募集していることをネットニュースで知ったんです。友達からも勧められ、私のやりたいこととも合っていたため、応募してみることにしました。そうしたら、応募写真を撮ったその日の夜、たまたまラ・ファーファの編集者の方に出会ってスカウトされたんです。さすがに運命を感じてびっくりしました(笑)二つ返事で承諾し、その3日後くらいには初撮影に参加していました。でも、そのときは自分の人生に大きく影響するようなことだとは思っていなかったですね。ラ・ファーファはもともと1年に2回発行の予定だったので、仕事の傍らで活動するつもりでした。ところが実際に発行されると反響が大きく、モデルとして活動する機会も増えていきました。

——具体的にどのような反響があったのでしょうか。

これまでのファッション誌は痩せている女性向けのものばかりだったので、ぽっちゃりしている女性たちはこういう雑誌ができたことをすごく喜んでくれました。「服をどこで買えばいいかわからなかったけど、雑誌に載ってるから見つけやすくなりました」、「おしゃれするのは痩せてからって諦めてたけど、今の自分でもおしゃれを楽しんでいいんだって気づきました」などなど。中には「自殺を思いとどまりました」という人までいて、本当にいろいろな反響がありました。同時にSNSがはやったので、読者の方たちが自分のコーディネートをアップして、「どこで買ったんですか」、「一緒に買い物行きましょうよ」と盛り上がったり。時代もちょうど合ってきたんですよね。普通サイズからプラスサイズまで展開しているブランドが増えたこともあり、今の若い子は体型が違っても友達と同じデザインの服を着ることができるようになってきました。20年ほど前、私が10代だった時代ではありえないことです。

視点を変える、社会を変える

——ボディポジティブと出会い、私自身かなり救われました。しかし、つい「痩せたい」と思ったり、「かわいくない」と悩んだりしてしまいます。

そういうふうに考えてしまっても良いと私は思っています。考えてしまっても良いけれど、視点を変えるというか。……痩せたいって思う?

——どうしても「かわいくなりたい」が「痩せたい」に結びつきがちです。

「太ってる私には価値がない」と思いがちですが、「肩凝ってる私には価値がない」とは思わないですよね。見た目ではなく、体の状態に目を向けてみると良いと思います。同じ体でも、視点を変えてみる。例えば、ここ調子悪いな、最近寝不足だな、肩凝ってるな、とか。食事の栄養バランスを良くしてみるなどして、体の不調を改善していくほうが、自分のための体づくりになります。痩せようと思うと、結構焦ってしまうんですよね。でもいきなり減量するのは体にとって良くないですし、むしろリバウンドしてしまったり、ストレスになってしまったりします。「痩せたい」とか「かわいくなりたい」と思ったら、違う視点を探してみると良いのかもしれません。

——「太ったね」など、人から気軽に容姿や体型について言及される世の中だと感じます。こうしたジャッジをされると、すごく傷ついてしまうのですが、どのように対処したら良いとお考えですか。

「それ、どういう意味ですか?」と言うと良いと思います。「太ったね」、「太ってるね」は言っている人によって意味が違うことがあります。単純に見た目の変化を指摘しているのか、痩せさせたいと思っているのか。例えば、「瘦せさせたくてそう言った」と言われたら、「それはあなたのすることじゃないですよね」と返しましょう。もうすでにダイエットに取り組んでいるかもしれないし、薬で太ってしまうこともあります。勝手に他人の管轄に足を踏み入れて「こうしたほうがいい、ああしたほうがいい」というのは間違っています。例えば、プロのボディメイクトレーナーの方は、他人と自分の境界線をきちんと引いているので、他人にいきなり「太ってるから痩せたほうがいいよ」なんて言わないんですよ。一個人として「どういう意味ですか?」と言葉にしたり、周りの人にボディポジティブについて話したりすること。また、こうしたフリーペーパーやコラムサイトなどの大きな媒体で発信して、社会全体の意識を変えていくこと。その両方が必要だと思いますね。

——吉野さんのSNSは見ているだけで元気が出ます。日ごろの発信は、個人に対しても社会に対しても影響力がありますよね。

フォロワーさんの気持ちが上向きに変わったら、別の人にシェアしてくれます。また、発信を見て、雑誌やコラムサイトから「うちで書きませんか」と依頼が来ることもあります。フォロワーの方々がいて、どれだけ影響力があるかが可視化されると、声もかかりやすくなるんですよね。人々の意識を変えるためには、社会的なムーブメントにしていくことが大事だと思います。

——インフルエンサーになると、やはり悩みもあるのではないでしょうか。

SNSで注目を浴びると、それだけ否定的な声も多く寄せられます。私の発言を誤読している人や、自分の解釈でものを言ってくる人もたくさんいます。私が「リンゴが好き」と言ったら、「俺はリンゴは好きじゃない!」みたいな……。インフルエンサーの中には、そうした声に反論される方もいますが、私は変わらない人は変わらないと思っているので、やり取りはしません。理解させようとすると変にこじれてしまいますし、その人ではなくて社会を変えようと考えています。SNSで嫌なことを言ってくる人は、私に限らずいろいろな方面に愚痴っていることが多いです。何か言われても、それは自分の問題ではなく、その人自身の問題だと思ったほうが良いですね。

——自分ではなく、言ってくる人自身の問題という点は、先ほどの体型のジャッジの話にも通じますね。発信し続けるうえで、社会を変えること以外のモチベーションはあるのでしょうか。

自分が悩んでいたときにどうすれば良いかわからなかったんです。当時いろいろな本を読みましたが、理屈はわかっても自分の中には入ってきませんでした。「優しいパートナーに出会って変わりました」といった体験談にも、「ちょっと待ってよ!」と。私の場合は、優しいパートナーに出会っても変わらなかったんですよ。ずっと自分の道しるべになるような言葉を探していました。いまこうして立ち直ったので、自分がその道しるべになれればと思います。過去の自分を成仏させてあげたいんです。自分のためです。自分のためだけれど、まわりまわって人のためになっていることもあります。

——では、今後チャレンジしたいことはありますか。

今はコロナウイルスの影響でできませんが、絶対に相手を揶揄しないという前提で、いろいろな人が自分の好きなファッションをするパーティーを開いてみたいです。他の人が自由な服装をしているのを目にすると、自分も今よりも自由な服装をして良いと実感できます。だから、頭で理解するだけではなくて、自分で体験することが必要だと思っています。私、大人になってからプライベートで水着を着てプールや海を楽しんだ経験が全然なかったんですよ。でも、今から3~4年前にはじめて海外に行ったときに、水着で川で泳ぐことになって。最初は人目を気にしていたけれど、周りを見たら水着姿を恥ずかしそうにしている人は皆無で、老若男女を問わず川遊びを楽しんでいました。プラスサイズの子も、彼氏とイチャイチャして遊んだりしていて。「そうか、水着って人に見せるためじゃなくて、水の中に入るために着るものだよね」と当たり前のことに気づきました。日本では、「夏が近づくのできれいになりましょう」といった広告が多く、スタイルの良い女性が水着を着ている姿ばかり目にします。だから、自分の中にも痩せていないと水着を着てはいけないという感覚があったのだと気づきました。それ以来、日本でも水着を抵抗なく着られるようになりました。

自分の気持ちを大切に

——最初の質問に立ち返りますが、やはり「痩せたい」「きれいになりたい」という感覚は刷り込まれていますよね。私自身も、小学生のころからそういった欲望が芽生えていたように思います。

フィジー島では、もともとぽっちゃりしている人がきれいだと言われていたそうです。しかしテレビが導入され、細い女性ばかりが登場する欧米の番組が流れるようになると、摂食障害になる人が出始めたと聞きます。やはり社会の影響は強いと思います。

—身近な人が、ルッキズム(註3)に苦しんでいるとき、どのように声をかけるとよいのでしょうか。

ネガティブな言葉だけを真に受けてしまう人は多くいます。他人からの否定的な言葉ばかり信じている……。でも、それは「他信」ですよね。自分ではなくて他人を信じている状態です。それなのに、他人からの優しい言葉は信じられない。そういう人には、「そんなことないよ」と言うより、「あなたはそう思うんだね」、「何でそう思うのかな」と寄り添ってあげると良いと思います。

—自分で自分のことを愛せたらとは思っていても、なかなか実行するのは難しいです。

条件付きであれば自分を好きだという人、例えば「痩せたら好きになれる」「かわいくなったら好きになれる」という人がいます。でも、本当の愛情は無条件のものだと思います。自分の存在を肯定することにも繋がりますね。私の友達は、妊娠したとき、赤ちゃんのためにいろいろなことに気をつかっていました。それは、自分の体の中にいるもう一人の存在を肯定しているということですよね。みんな人の体から生まれてきているので、一度は絶対に存在を肯定されているはずです。そのことを忘れがちですが、たまに思い出すと「自分、存在しててもいいかも」と思えるかもしれないですね。

——友人や家族が落ち込んでいるときは慰めることができるのだから、それを自分にも、ということですね。

自分に厳しいことも大事ですが、自分に共感してあげることも必要です。最近ホルモンについてよく調べているのですが、体に傷ができたら細胞などが治そうとするように、心もストレスでバランスが崩れると、ほかの何かでバランスを保とうとするそうです。だから、例えばストレス食いをしてしまう人は、まず自分の心がストレスを感じていると気づくことが大事です。「あのことに私はすごく傷ついていたんだな」と。食べたことを後悔したり自責したりすると負のループに陥ってしまうので、もし食べてしまっても「おいしかったな」と肯定的に考えてみてください。そうすると、自分の心と体とうまく付き合っていけるかもしれないですね。

——なぜ欲望を持ってしまうのか、考えてみることが大事なんですね。

欲望は、自分の気持ちのもう一つ上にあるもの、覆いかぶさっているベールのようなものだと思います。食べたいと思うのは実はストレスが溜まっているからだったというように、核心があって、その上に欲望があるんです。欲望が生じたら、自分の気持ちと向き合うきっかけになるかもしれません。

——最後に、主な読者である大学生に伝えたいことがあればお願いします。

自分の気持ちを尊重してほしいです。社会に出て悩んでいる人は、周りに合わせすぎてしまったり、自分の気持ちを抑え込んでしまったりする人が多いですね。いつでも、自分がどう思うのかを大事にしてもらいたいです。

註1)プラスサイズの人々によって始まったムーブメント。痩せている体型が美しいという従来の価値規範に対し、「ありのままの体型やありのままの自分を愛する」という考え方。
註2)2013年に創刊された、日本で初めてぽっちゃりした女性をターゲットとしたファッション誌。
註3)外見至上主義。容姿によって人を差別すること。