現在、様々な分野でAI(Artificial Intelligence:人工知能)の活用が進んでいる。AIの活用は我々の生活を豊かにしてくれる一方で、その急速な発展に不安を覚える人も少なくない。EXDREAM株式会社の代表を務める斎藤喜寛さんは、音楽にAI技術を取り入れる革新的な研究を行っている。我々はAIという新たな技術とどのように向き合っていけば良いのか。そのヒントを得るため、斎藤さんにお話を伺った。


AI×音楽

——斎藤さんはAIを用いた作曲の第一人者として活躍されています。斎藤さんの音楽との出会いはどのようなものだったのですか。

小学校5年生か6年生の頃に友人のお姉さんにギターをもらったのが始まりです。もしかしたら自分の人生は音楽のためにあるのかもしれない。その時なぜかそんなことを感じ、今までずっと音楽をやってきました。最初はロックをやっていて、次第にジャズに興味を持つようになり、10代の半ばには音楽理論の研究を始めました。

研究を進めていくうちに音楽理論は数学的であることが分かり、プログラミングとの相性が良いのではないかと思うようになったんです。そこで新たな音楽の可能性を探るべく、プログラミングを勉強し始め、AIを用いた作曲に取り組むようになりました。これはまさに自分が研究するべき領域だなと思い、今はAIを用いた作曲に注力しているという感じです。

——AI作曲について教えてください。

「AI作曲」とわかりやすく言っていますが、AIが行っていることは厳密には「作曲」ではなくて「生成」なんです。「生成」とは、AIで言えば、アルゴリズムに基づいてメロディーなどの新たな音楽を書き出すこと、ただそれだけを指します。

一方で「作曲」とは、何かを伝えたいという願いや感情があって、それを音楽を通して人々に投げかけるまでの一連のプロセスを指します。AIができる「生成」は、そのプロセスの中にある作業にすぎません。

もし今後AIが意思を持つようになり、音楽を通して願いや感情を人々に投げかけることができるようになったら、本当の意味で「AI作曲」といえるのかもしれないですね。

——AIを用いた音楽はどのように作成されているのですか。

AIにも実はいろいろな種類があるのですが、私は人間の脳の仕組みを応用したニューラルネットワークという技術を用いています。これは大量の音楽データを学習させることで、その中からAIがいくつかのパターンを発見し、それに基づいて新しいメロディーを生成するというものです。

例えば「手塚治虫 AI復活プロジェクト TEZUKA2020」のCM音楽を作成した際には、70年代ロックのギターリフをAIに学習させ、ギターのメロディーを生成しました。生成されたいくつかのメロディーの中から良いと思ったものを人間が選んで繋げ、譜面を完成させました。そして、AIが生成したギター以外のパートは、人間のアドリブ演奏で構成しました。

AIが生成したフレーズと、人間の感情に任せた演奏。その二つを対比させることによって、より人間の感情が強調される楽曲になることを目指しました。

——AIを用いた作曲にはどのような魅力があるのですか。

AIを用いた作曲の面白さは、今までとは違う、新たなクリエイティビティが問われることです。AIを用いると、音楽に新たな価値を発見することができるんです。現時点で、テクノロジーの活用は音楽業界ではあまり進んでいません。CDやレコードの売り上げが落ち込むなかで、これからは今までにはなかった新たな価値を、音楽の中に発見していくことが重要になるでしょう。

AIを活用する動きを音楽業界の中にも広めていきたいと思っています。具体的な取り組みとして、EXDREAMではAIを用いた作曲専門のスクール「canplay」を開いています。また、将来的には音楽テクノロジーを教える大学や大学院も作りたいと考えています。与えられたAIのサービスを使うだけでなく、自分でその仕組みを理解して作れるようになってもらいたいと考えています。