Vol.42 Interview 01

多くの恋愛漫画やドラマ、ひいてはおとぎ話の「お姫様は王子様と結婚し幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし」からも見てとれるように、多くの場合、恋人になることや結婚が一大クライマックスとされ、そこに至るまでの過程が描かれる。しかし出会いや結婚のその後、「幸せに暮らしましたとさ」について同じ熱量で語られることはない。実人生で重要なのは“その後”どのように二人で生きていくかである。対等なパートナーシップを築き、お互いが幸せに暮らしていくために必要なのは、対話ではないか。パートナーとの対話をサポートし、関係性のメンテナンスとなるサービスを提供しているあつたゆかさんにお話を伺った。

「パートナーと対話する」ということ

—— あつたさんが提供されているサービス、“ふたり会議”“ふたりの教室”とはどのようなものなのでしょうか。

“ふたり会議”は同棲や結婚生活において話し合うべきトピックについて、YES・NO形式で質問に答え、回答結果をパートナーと共有できる対話ツールです。

“ふたりの教室”は、パートナーシップの形成や家庭運営について具体的に教える教室です。

なので対話のツールと、ノウハウを学ぶ場を提供していることになります。

これらのサービスを提供する“株式会社すきだよ”は、誰もが大切な人とずっと幸せでいられる社会をつくるというビジョンのもと、夫婦やカップルのパートナーシップの支援を行う会社です。

—— マッチングサービスは広く普及していますが、出会ったあとにどのように関係性を築いていくかをサポートするサービスはあまり見かけません。なぜ、対話のサービスを立ち上げたのでしょうか。

4年前結婚したときに、「新婚さんは幸せだよね」「結婚式が人生で一番幸せ」「子どもが生まれたら仲悪くなるよ」などと言われ、とても違和感がありました。

なぜ結婚すると仲が悪くなっていくのがあたりまえという風潮があるのか、疑問に思って調べてみたんです。

すると、日本では年間60万組が結婚し、同時に20万組が離婚しているとわかりました。

3分の1が離婚している状況では確かに「仲が悪くなるよ」と言われるのも仕方ないなと思いました。

リクルートの調査(引用)によれば、離婚する理由の上位は“価値観の違い”“性格の不一致”“人生観の違い”などです。

でも、私と同じ価値観で、私と同じ性格で、私と同じ人生観の人なんてこの世にたぶん一人もいません。

不一致があるのは当然のことなのに、対話ができないために意見をすり合わせられず別れるのではないか、という仮説を立てて対話ツールを作りました。

—— 対話することはパートナーシップを築くうえで必要不可欠なんですね。

私は、家庭運営は会社の共同経営のようなものだと考えています。

企業は利益を最大化するものですが、家庭は二人の幸福を最大化するものであり、パートナーは共同経営者です。

もし会社の経営陣がうまく対話できていなかったら、その会社の経営はかなり危ないですよね。

日本人は会話はできるけれど対話はできない、と言われることが多いんです。

日常生活のとりとめのないやり取りが会話で、お互いの価値観をすり合わせたり相互理解を深めたりするやり取りが対話です。

パートナーと人生を歩むときに、とりとめのない会話だけではやっていけません。

キャリア、子育て、住居、親の介護……話し合うべきトピックが本当にいっぱいあるんですよね。

対話ができていないカップルだと、その壁にぶつかったときに乗り越えるのが難しくなってしまうのかなと思います。

—— 確かに、相性のいい相手と付き合うことにこだわる人は多いですが、付き合いはじめてから対話が必要だと考えている人は少ないように思います。

フロムの『愛するということ』という有名なパートナーシップの本があります。

ここでも「自分たちの結婚生活がうまくいっていないのは、相手が愛するにふさわしい人ではないからなんだ」「愛することは簡単だけど、愛するにふさわしい相手を見つけるのは難しい」など、人々が愛を能力ではなく対象の問題だと考えてしまっていると指摘されています。

「相性がいい」と思っていたとしても、付き合っていくなかで必ず何か違いは出てきます。

きっかけは「趣味が同じ」でもいいんです。

でも、趣味は変わりうるものですし、食の好みからセックスの希望頻度まで全部一緒というのは奇跡に等しいことです。

対話して調整していく能力が大事ですね。

新しいサービスとして

—— “ふたり会議”の対話のトピックや、“ふたりの教室”で扱う内容はどのようにしてセレクトされているのでしょうか。

“ふたり会議”を作るにあたって、結婚している先輩方にヒアリングを行いました。

付き合ってから、もしくは結婚してからわかる、「意外と違うんだ」「ここ揉めるよね」というポイントを取り上げています。

“ふたりの教室”では、毎週勉強会を開いています。

毎回のメンバーの悩み相談から、より良いパートナーシップを築くためにはどんな内容が必要かを、そのつど考えています。

対話する前にそもそも言語化する能力が大事だよね、対話のためにストレスマネジメントでエネルギーを貯めたほうがいいよね、と。

—— 過去に“ふたりの教室”で扱われたテーマを拝見しました。ストレスマネジメントをはじめとして幅広い内容が取り上げられており、自分の想定していた「対話」の範囲が狭かったことに気づきました。また、ビジネスの考えを取り入れた内容もあり、意外でした。

ビジネスも、共同でチームを運営するという点で、夫婦やカップルと一緒です。

他人に自分の意思を正しく伝えたいときなど、対話する能力はさまざまな場面で活かせます。

アドラー心理学では、対人関係は職場・友人・家族の順で難しくなると言われています。

パートナーと円満な人は、家族という最も難しい対人関係がうまくいっているので、職場でも良い対人関係を築けるはずです。

パートナーシップを学ぶことによってビジネスの対人関係も良くなっていくと思います。

—— サービスの運営において苦労した点はありますか。

マネタイズ面です。出会いのサービスはたくさんあるけれど、出会った“その後”を支えるサービスはありませんでした。

この全く新しい市場の中で、どうやって事業として収益を上げていくのか……。

「出会い系アプリに月3000円課金する」という習慣はあるけれど、パートナーとの関係を維持するのにお金を使う習慣は現状ありません。

パートナーとの関係性をメンテナンスすることは大事なことであり、そこにリソースを割いたほうがいいという考えを広げるのがすごく難しいですね。

あとは、「嫌なことがあっても我慢するのがいい女」「不満を伝えるのは男らしくない」など、対話しないことを推奨する従来の文化と闘っていくのも難しいです。けど、やりがいはあります。

—— では、喜びを感じる瞬間はありますか。

「自分から結婚の話をしたことで振られた経験から、パートナーに結婚の意思を言いだせずにいたけど、“ふたり会議”で相手にも結婚の意思があるとわかって結婚できました」や「自分は子どもが欲しかったけど、彼氏が子どもを目にしても反応しないので彼は子どもが欲しくないんだと思っていました。

“ふたり会議”で彼も『子どもが欲しい』と答えていて、話ができてうれしかった」など、そういった声を頂くと、みなさん話せてなかったことが話せるようになって良かったなと思います。

“ふたりの教室”では「自分では話し合いをしているつもりだったけれど、聞き方が悪く相手を責めてしまっていたことに気づきました。

聞き方を改善したことで今は円満です」など、その方のパートナーシップが変わった話を聞くとすごく嬉しいです。

お互いを尊重し、理解する

—— あつたさんご自身はパートナーの方と最初から対話できる関係性だったのでしょうか。

前のパートナーとはできていませんでした。

今のパートナーとは職場が同じなんです。

うちの会社には「質問責任」という言葉があります。何かもやもやしたことがあったら、小さなことであっても、相手が社長であっても、質問する責任があるんです。

そういう文化の会社で出会ったので、自然と対話する関係性ができあがりました。

食洗器へのお皿の入れ方や、段ボールの片づけ方で3時間くらい議論したりしますね(笑)

—— 相手に質問するとき、高圧的な聞き方になってしまっているのではないかという不安があります。質問のコツはあるでしょうか。

アサーションという、相手を尊重して自己表現するコミュニケーションの方法があります。

例えばパートナーの仕事の帰りが遅いとき、「なんでいつも夜遅く帰ってくるの?」という聞き方だと相手を責めているように聞こえますよね。

これでは相手も「忙しいんだからしょうがないよ」と言い返したくなってしまいます。

けれど、「なんで」と聞いてしまうのは、純粋な怒りによるものではなくて、「もっと一緒にいたい」という願望が怒りとして出てしまっているからかもしれません。

なので、まずは自分がどうしたいのかを言語化することが大切です。

「最近、二人の時間が少なくてさみしいと思ってて……仕事を頑張りたいのはわかってるよ。

でも体も心配だし、どうしたらいいか一緒に考えてもらえるかな?」と伝えれば、相手の受け取り方も変わってくるはずです。

ほかにも、IメッセージとYouメッセージというものがあります。

Iメッセージは「わたしはあなたにこうしてもらえるとうれしい」といった自分が主語になっているもの、Youメッセージは「あなたってなんでいつもこうなの」といった相手が主語になっているものです。

決めつけたように聞こえるYouメッセージより、Iメッセージのほうがすんなり受け取ってもらえるので、質問のときはなるべくIメッセージで伝えると良いです。

質問に見せかけた非難にならないようにすることが大事ですね。

—— 質問の仕方を工夫するだけで大きく印象が変わりますね!そのほかに、対話によってどのような問題を解決されましたか。

一番わかりやすい例を挙げると、結婚式をするかしないかで意見が割れたことがありました。

私は結婚式に対して否定的でした。

嫌だなと思う部分がたくさんあって……例えばファーストバイト(註)には「一生おいしいご飯を作る(女性側)」「食べるものに困らせない(男性側)」という意味があります。

「共働きだし、私は料理作らないし、嫌だな」と思いました。

そこで、そもそもなんでお互い結婚式をしたいのか、したくないのかを話し合いました。

夫から家族や友人に感謝を伝えたいから挙げたいと言われ、私も「確かに、それは私も同意します」と。

また、私がこういった理由で伝統的な結婚式はしたくないと話したら、夫も「確かにそれは嫌だね」と理解してくれました。

そうして、自由でジェンダーフリーな結婚式にしようという話にまとまり、結果的にお互いの満足する結婚式になりました。

結婚式をするかしないかのようなAとBの二択にするのではなく、お互いの意見を聞いてCという新しい選択肢を作って解決していくことが多いですね。

—— 実際にふたり会議を利用してみたのですが、「はい」「どちらでもよい」「いいえ」と回答の選択肢がシンプルだからこそ、足りない言葉を補うためになぜその答えを選んだのかを相手に説明する流れになり、結果として対話が生まれるのだと思いました。

おっしゃる通り、YES・NOの答え合わせをしてほしいのではなく、なんでその答えを選んだのかを話し合ってもらいたいです。

意見が分かれたときに、理由を話し合ったら相互理解が深まりますよね。

対話はお互いの背景を知ることに繋がるんです。

対話は人生の必需品

—— 今後、どのような活動をしていきたいとお考えですか。

マンツーマンのサービスをやりたいです。

対話ができない人の中には、家庭で否定されることが多かったために意見を言うこと自体が怖いという方もいるんです。

そのあたりを紐解くような、一人ひとりに寄り添ったカウンセリングをできたらいいなと思います。

マッチングサービスもやりたいですね。

—— あつたさんにとって“対話”とは。

“人生の必需品”でしょうか。

多様性の時代になり、自分と目の前の人との価値観が違うことがあたりまえになりつつあります。

家庭に関しても、結婚することや子どもを産むことが正解ではなくなってきているからこそ、自分たちがどうしたいのか、より対話しなければならない時代ですよね。

異なる価値観をすり合わせていく力は、ビジネスでも家庭でも必要なスキルです。

私からすると「対話から逃れて人生生きてられない」といいますか、そういう意味で対話スキルは人生の必需品だなと思っています。

註)ファーストバイト:結婚式でケーキ入刀のあとに、新郎新婦がケーキを食べさせあう儀式。

引用)夫婦・家族 | マーケットを読む・調査データ | リクルート ブライダル総研

あつたゆか

株式会社すきだよ代表取締役。「誰もが大切な人とずっと幸せでいられる社会をつくる」をビジョンに、7万人以上の夫婦・カップルが利用する対話ツール「ふたり会議」や、パートナーシップの築き方を学べるコミュニティスクール「ふたりの教室」を運営している。