Vol.42 Interview 06

CDはサブスクに取って代わられ、ライブイベントはコロナ禍によって再考を余儀なくされた。アーティストとリスナーを繋いできたものが、今大きな転換点を迎えている。それに伴って、リスナーがアーティストに向けるまなざしも、それに呼応するアーティストの表現活動も姿を変えていくだろう。移り変わる時代の中で、両者の「対話的」関係はいかなる展開を見せるのか。

音楽事務所の代表として、日本音楽制作者連盟の理事長として、これまでの日本の音楽シーンを最前線で見つめてきた野村達矢さんにお話を伺った。

「物差し」を持ち合わせる

—— 野村さんはどういった活動をされているのでしょうか。

音楽プロダクションで、主にアーティストのマネジメントをしています。

具体的には、新人アーティストを発掘して契約するところから始まり、その後個々のアーティストの楽曲の方向性を決めたり、キャラクター付けをしたりといった、ブランディングの仕事を中心に行います。

また、スタッフの采配のような、プロデュースに近い業務にも携わっています。

— 現在のそうした活動に至るまでの経緯を教えてください。

中学生の頃から積極的に音楽を聴くようになり、その楽曲やアーティストになぜ惹かれるのかということについて、深く考えるようになったのがはじまりです。

そこから自分自身も音楽をプレイするようになったのですが、高校生くらいのときには、自分がパフォーマンスすることへの限界を感じていました。

その後大学に入り、「プロデュース研究会」というサークルに出会ったことが転機でしたね。

そのサークルは、音楽をプレイする側ではなく、プロデュースする側としてライブコンテンツをつくっていくサークルだったんです。

ライブを裏方で支えるという発想がなかった自分にとって、こうした活動を一つの拠り所として集まっている人たちがいるのは目から鱗でした。

ライブを開催することによって、ステージに立つアーティストが喜んでくれたんです。

それまで自らパフォーマンスすることに憧れていましたが、ステージに立たなくても、ステージに立つ人間と同じ、もしくはそれに近い達成感を得られるんだなと気づきました。

そこから、プロデュース活動にのめり込んでいったのが今の仕事の原点ですね。

—— 一人のリスナーとして音楽を受容する視点から始まり、プロの仕事としてアーティストに寄り添う視点も併せ持つようになったのですね。

音楽の好き嫌いは主観的な視点だと思います。

これは音楽を聴く段階で誰しもが持ち合わせているものですよね。

一方で、好きになった音楽を世の中に広めるためには、客観的な視点が必要です。

世の中においてその音楽が共通言語となりうるのか、つまり「この音楽って世の中に伝わるかな」とか、「もっとこういうふうにやったら伝えられるんじゃないか」といったことについて客観的な判断ができるかどうか。

それが音楽を仕事にするのとしないのとでの差なんだろうなと感じています。

私は、主観的な物差しと客観的な物差しを持ち合わせることを、比較的早い段階から意識してきたところがあると思います。

そのためには常日頃から、業界におけるマーケティングの動向もキャッチしていかなきゃいけないし、自分のセンスと世の中のセンスを個々の音楽に照らし合わせながら比べていかなきゃいけない。

そういった部分には気をつけていますね。

メディアの変遷を見つめて

—— そうした仕事を長年続けられているなかで、アーティストとリスナーのインタラクティブな関係についてどのように感じられていますか。

アーティストとリスナーを繋ぐものについて考えたとき、メディアの存在が大きく関わっていると思います。

この仕事を始めて35年ぐらい経ちますが、その間にここ数年のSNSを使える時代、SNSが始まる前の時代、さらにもっと古い時代という三つの時代があったと思います。

一番古い時代はオールドメディア、いわゆる新聞・雑誌・テレビ・ラジオといったもので、最大公約数に対して投げかけていく部分がありました。

アーティストとリスナーの間に何層ものレイヤーがあったんです。

例えばラジオで、自分の担当するアーティストの音源を一曲かけてもらうには、ラジオ番組のプロデューサーや現場のディレクターにネゴシエーションしなければならなくて。

そうしてやっとリスナーのところに音楽が届けられていました。

それが今度は20年くらい前にもう少し進化した時代がやってきて、ラジオがトーク中心のAMと音楽中心のFMに分かれたように、音楽メディアが少しずつ専門化されていきました。

テレビも地上波の放送がありながら、CSやケーブルチャンネルに、MTVやスペースシャワーTVのような音楽の専門チャンネルができてきて。

さらに雑誌も、いわゆる一般誌に対して、音楽専門誌が充実しはじめてきました。

そういう時代におけるリスナーとアーティストの間を繋ぐアプローチの仕方はまた少し変わってきて、不特定多数の、音楽に親しんでいるかわからないような人たちではなく、ある程度音楽が好きな人たちに的を絞って情報を出していけるようになったんです。

私がBUMP OF CHICKENをマネジメントしはじめたのはちょうどその頃で、どちらかと言うと音楽専門メディアみたいなところに売り出していくようにしていました。

そこから10年ぐらい経って、私がサカナクションのマネジメントをしはじめた頃はSNSの時代になりつつありました。

iPhone3が出たことによってSNSが急速に進化して、Twitterが始まったのもちょうどその頃です。

アーティストも、情報を自らのSNSで発信するようになりはじめました。

それによって決定権が私たちアーティストのほうに移ってきたんです。

例えば音楽の配信を決定するのも、それに合わせてSNSで情報を出すのも、すべてアーティスト自ら行えるようになりました。

今までのテレビやラジオであれば、一日24時間のうちの一曲3分とか、雑誌でも100ページのうちの2ページといった限られた面積の中の取り合いをしていましたが、SNS時代になるとその制限されたキャパシティがなくなった。

これまでの時代との大きな違いです。

ただ、当然のことですがメディアとしての力は個々になった分弱くなりました。

それまでなら、各々が好きなアーティストを目的に雑誌を読むと、そのついでに新人のアーティストを見つけることができました。

しかし、SNS時代になると、アカウントに飛んでもらわないかぎりは発信ができないわけです。

そういう点で、失われたメディアの力に代わるものを見つけないといけないというのは、SNS時代の一つの課題ではあると思います。

私としては、アーティストとリスナーを繋ぐ架け橋がどういうふうに変わっていったかを見極め、さらにはその変化をいかにうまく使うかを考え続けてきました。

拡大する音楽流通

—— 音源をリリースする媒体も、CDが主流であったのが現在はサブスクリプション(サブスク)に移り変わってきていると思います。サブスクの普及は、リスナー側、アーティスト側にとってどのような意義があるのでしょうか。

今までの音楽の歴史の中で、アナログレコードがあって、CDが出てきて、それに並行してMDやカセットテープがあったところからサブスク、ストリーミングの世界になったというのはすごく大きな変革だと思います。

音楽を聴く側としては、ストリーミング以前の時代は一曲一曲にペイメントしてきたのに対し、ストリーミング以降になってくると、音楽を聴けるサービスへのペイメントになったところに大きな差があると思います。

今や音楽は社会インフラのようになってきています。

水道の蛇口​を​ひねって水が出てくるのと同じように、ひねったら無数の音楽が流れてくる時代です。

月々音楽に使えるお金が2000円だとすると、今までなら12曲入りのCDを一枚買えたらいいほうだったと思います。

でも、サブスクがあれば、半額の1000円だけで、世界中の何千万もの曲が自分のライブラリに入ってしまうんです。

そういう意味で、サブスク、ストリーミングが始まったことによって、音楽の歴史が大きく変わったと言えるんじゃないかなと思います。

音楽を供給する側としては、製造リスクがなくなってきました。

今まではCDをプレスしてジャケットを作るためには、最低でも1000枚売れなければ元は取れないし、なおかつそれをニーズに合わせて流通させなきゃいけなかった。

200人聴きたい人がいる街に50枚しか届けられなかったり、10人しか聴きたい人がいない街に100枚届けてしまったりするのは避けたいですよね。

そんなときにストリーミングであれば出荷量を調整する必要がないんです。

また、今言ったようにCDは製造リスクがあるので、これまではある程度の枚数を売り上げないかぎりはデビューできないという、いわゆるデビューに対するハードルがありました。

しかし今では曲をストリーミング配信すれば、その時点でデビューしたのと一緒なんです。

YouTubeに動画を上げるのと同じぐらいの手軽さにまでハードルが下がっています。

さらに今までの日本のレコードやCDは国内流通が限界だったのに対し、ストリーミングの時代になったことで世界デビューすら難しいことではなくなりました。

ただ一方で、単価は下がりました。

しかしそれも、3000円払ってくれる一人に聴いてもらうのと、1円しか払わない3000人に聴いてもらうのとで売上金額は一緒なので、聴く人のパイは広がっていると捉えれば、ものすごく夢がありますよね。

これもストリーミングの時代の魅力だと思います。

—— デジタル化とグローバル化がサブスク、ストリーミングにおける二つの大きな要素ということですね。

ここ10年ぐらい、日本のレコード会社はストリーミング化することに対してずっと抵抗していたんです。

海外では5年ぐらい前にはあたりまえになって​い​たので、日本と海外ではその分だけ差が出てきてしまった。

それは日本が狭い国土の中に1億2000万人のマーケットを持っているために、この国の中だけで商売が成立してしまうことが関係していると思います。

しかし例えば韓国は、国内マーケットが5000万人と小さく、海外にもマーケットを求めていかないとエンターテイメントとしての産業が成立しなかったというのもあって、早い段階から海外に向けて積極的にアプローチしはじめていました。

その結果、音楽ではグラミー賞、映画ではアカデミー賞に、韓国のコンテンツはノミネートされている一方で、日本のコンテンツは全然ノミネートされていないのが現状です。

そうしたグローバル化やデジタル化の課題に、今後日本のアーティストは取り組んでいかなければいけないと思います。私たちの会社でも、グローバル化に向けて海外でも通用するようなアーティストをどんどん発掘していっています。

現に、The fin. というアーティストは、ヨーロッパで下地をつくって今全世界的に支持されるようになっている。

日本のアーティストでも、これからの10代20代のアーティストは海外へも意識を向けて音楽づくりに取り組んでいる印象があります。

私たちはそういうアーティストと出会いたいし、彼らが活躍できる仕組みや土壌をつくっていきたいと思っています。

—— 音楽のデジタル化が進んでいくにつれて、これまでのアーティストとリスナーの間にあった、物を介した「アナログ」な繋がりはどのようなものになっていくのでしょうか。

音楽がデジタル化した時代では、単純に曲を聴くだけならばストリーミングで充分ですよね。

それでも、アーティストとの繋がりを形として残しておきたいというリスナーの気持ちは、消えない気がしています。

私たちが意識していることの一つに、曲はもちろんのこととして、その曲を提供しているアーティストも好きになってもらえるかということがあります。

アーティストの生きざまや曲に込められた想いに心惹かれてはじめて、そのアーティストのCDを買いたいとか、グッズを買いたいと思ってもらえるんだと思います。

だからこそ、デジタル化が進めば進むほど、アーティストとリスナーの「アナログ」な繋がりを保つためには、音楽の力だけじゃなく、アーティスト個人の人間性の魅力がすごく大事になってくるのではないかと思っています。

—— 今の時代は、SNSがアーティストとリスナーの「対話」の場として機能しており、そうしたアーティスト個人の思想や人間性が可視化されるようになったと思います。

プロでやっている以上、アーティストが自身のパーソナリティをマネタイズできるかどうかというのも、実は重要なことだと考えています。

例えば、リスナーとの繋がりでSNSを使うにしても、そこですべてを発言するのではなく、「ここから先の発言は有料のサイトで見ることができますよ」というような、いわば課金領域を設けることもできるんです。

しかしそれは、ただお金のためというよりは、前に述べたようにアーティスト自身のパーソナリティの価値をどう上げていくかという部分に深く関わってくるところだと思います。

お金を払ってでも繋がっていたいとリスナーが思えるパーソナリティを持っていられるかどうかというのは必要な要素でしょうね。

コロナ禍を経て、音楽の未来は

—— ライブはアーティストとリスナーを繋ぐ場として機能してきましたが、ライブの形式もコロナ禍において、変化を遂げてきています。その手段の一つとしてのオンラインライブは、リアルライブと比べてどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

メリットでいうと、一つはスペースの制約がないことです。

今までのライブは、例えばサカナクションのようなクラスになってくると、ライブツアーを開催してもすべてソールドアウトで、チケットを取れない人がたくさんいました。

しかしオンラインライブの場合、キャパシティの制限がなく、売り切れが起こりません。

そのため、ライブを観たいすべての人に対してその内容を伝えることができるんです。

また、これまでは、ツアーを回ったときに、札幌公演は北海道の人しか来ないし、東京公演は関東の人しか来ない、といったことがありました。

ですが、オンラインライブは場所の制約がないので、へき地も含め全国津々浦々、それこそ世界中から観ようと思えば観られるような状況になっています。これも大きなメリットだと思います。

ほかにも、「親がうるさくてコンサートにいけなかったけど、気兼ねせずにライブを楽しむことができました」とか、「子供が産まれてなかなか家庭を離れることができなかったけど、ライブを観るチャンスができました」といった声も聞こえてきました。

今までのリアルライブでは対応しきれなかった部分のフォローができたという点では、オンラインライブをやって良かったなと思いました。

デメリットとしては、やはりどこまで楽しいのかというところでしょう。

オンラインライブではたらきかけることができるのは、画面を観て音を聴く際の、視覚と聴覚に対してでしかないんです。

ライブ会場ならではの臨場感は、どうしてもオンラインでは伝えられないなと。

だから、リアルライブに近い満足感をいかにもたらすことができるか、もっと研究して工夫していきたいと思っています。

インタラクティブな交流や、「体験値」に関しては、オンラインとリアルでは雲泥の差ですよね。

逆に言えば、オンラインライブをやるようになったことによってリアルライブの価値は上がったなと。

それは良かったなと思っています。

—— コロナ禍が収束したとき、このままオンラインライブが定着していくのでしょうか。それともまたリアルライブが主流になっていくのでしょうか。

アーティストは当然リアルライブを求めていくと思います。

ただ、先ほど言ったようにオンラインライブにもメリットがあるので、オンラインライブとリアルライブ、その双方のメリットを両立させる方法があるのではないかとも考えています。

例えばリアルライブのツアーを行いながら、最終日だけオンラインで同時配信するというような、いわゆるハイブリッドバージョンのライブがこれからどんどん出てくるのではないでしょうか。

そうすれば、チケットを取れなかった人も、あるいはチケットを買うつもりはなかったけど、オンラインだったら観たいという人も当然参加できるわけです。

また、サカナクションの『光ONLINE』(註1)のように、ライブの映像を単純にオンラインに上げるのではなくて、オンラインなりの表現で作品化していくという取り組みも出てくるような気がします。

すでにオンラインライブ用のスペースみたいなものも出てきていて、オンラインライブをするうえでのインフラは充実しはじめてきました。

そこにVRやARといった、新しい技術をさらに取り入れていくというようなアプローチもあると思います。

—— コロナ禍以前の小さなライブハウスであれば、アーティストとリスナー、またリスナー同士の距離感も近く、そこで一つのコミュニケーションが生まれることが多くあったと思います。オンラインライブを経て、そうした「対話」の場はどう変わっていくのでしょうか。

 オンラインライブにも、単純に映像を流すだけではなく、「対話」の場として機能するようなものが生まれはじめています。

私の関わったものであれば、「バーチャル渋谷」というものがあります。

ネット空間につくり出された渋谷の街に、ライブハウスが設置されているんです。

アバターがスクランブル交差点を下りて地下のバーチャルライブハウスに入っていくと、その中でライブをやっていて、音楽を楽しみながらアバター同士の交流ができます。

そうした疑似空間のようなことも、オンラインライブの一つのアプローチとして行われはじめています。

オンラインライブを個別の空間で鑑賞しながら、リアルライブのような密な空間を体験できる、いわばグラデーションのような状態ですね。

—— 今後、野村さんは音楽における「対話」の場をどのようなものにしていきたいとお考えですか。

ネット空間に平等な音楽コミュニティをつくることに興味があります。そのためにブロックチェーン(註2)やNFT(註3)といった技術に着目しています。

ブロックチェーンの技術を用いたコミュニティの中で、デジタルコンテンツをつくり、それにNFTで価値を付けて売買するというアート作品のリリースの仕方があります。

音楽はゴッホやピカソの絵画と違って簡単に複製できるので、一品ものになりえません。

しかしブロックチェーンのコミュニティ内においては、仮にコピーしたとしても、その大もとのマスターはみんなの監視のもとに保護されているため、そのデジタルコンテンツを本当に一つしかないものとすることができるんです。

そうしたコミュニティにDAO(註4)の仕組みを取り入れれば、アーティストも、リスナーも、音楽を広めるキュレーターも、それぞれが自律して相互に繋がりを持つことができます。

ブロックチェーンで保護され、売買されたデータをその音楽コミュニティ内で共有していけば、彼らは平等に偏りなく利益を得ることができるかもしれない。

そういったバーチャル上の「小さな社会」をつくることにも取り組んでいけたらいいですね。

(註1)『光ONLINE』:サカナクションが2020年8月15日および16日に開催したオンライン・ライブ。「ライブミュージックビデオ」というコンセプトのもとに企画され、従来のライブ映像とは全く質感の異なる映像美を追求した画期的な映像作品として、大きな反響を呼んだ。

(註2)ブロックチェーン:取引履歴を暗号技術によって過去から1本の鎖のように繋げ、正確な取引履歴を維持しようとする技術。

(註3)NFT(Non-Fungible Token):非代替性トークン。代替が不可能なブロックチェーン上で発行された、送信権が入った唯一無二のデータのこと。デジタル上での資産の鑑定書や所有証明書としての役割を持っている。

(註4)DAO (Decentralized Autonomous Organization):自律分散型組織。中央集権者がおらず、それぞれの構成員によって自律的に運営される組織のこと。

野村達矢

1962年東京都生まれ。1986年明治大学商学部を卒業し、渡辺プロダクションに入社。1989年ヒップランドミュージックコーポレーションに入社。BUMP OF CHICKEN、サカナクション、KANA-BOON、THE ORAL CIGARETTES、The fin.など多くのロックバンドを手掛ける。また「FRIENDSHIP.」という音楽デジタルディストリビューションサービスも立ち上げ音源をグローバルに展開することを推進している。現在、ヒップランドミュージックコーポレーションでは代表取締役社長を務め、あわせてA-Sketch、スペースシャワー、MUSICA、ヒップランドの4社で立ち上げたMASH A&Rの取締役、米津玄師が所属するREISSUE RECORDS inc.の取締役、日本音楽制作者連盟の理事長を務める。