特別号 Interview 02

生き様を刻みつけるような楽曲で日本のHIPHOPシーンを牽引し続けるプレイヤー、般若。派手なフレックスや粉飾されたリリックに寄りかからない真っ直ぐな彼のスタイルは、日常的に「飾る」ことに囚われている現代の我々にとって、一つの大きな指針になるのではないか。多様化するHIPHOPのステージに毅然として立つ彼に、「飾る」に対する独自の考えを語ってもらった。

「飾る」に関して

—— HIPHOPシーンにおける「飾る」に対する考えなどはありますか?

ごめん、まったく実は考えたことがなくて。

俺がずれているのかもしれないけど、本当に申し訳ないけど考えたことがないなって。

—— それは活動を始められたときからでしょうか?

まあ知ってるか知ってないかは分からないけど、チェーン(※1)とか着ける人間でもないし。なんか、全然興味なくて。

—— チェーンを着けている他のラッパーに対して何か印象はありますか?

いや、全然かっこいいと思うよ。俺が特殊すぎるんだと思う、正直言うと。

普通に考えたら、じゃあHIPHOPって何ですか?って、まあ俺もHIPHOP好きで毎日毎日聴いてはいるし、25、26年聴いてるし、憧れの文化ってのはあるけどなんかそこにあんまり憧れなかった。

単純に金属アレルギーってのもあるけど、時計で限界なの。

何か自分に身に着けてることがあんまり出来ないんですよ性格的に。

さすがに最低限服は着てますよ?

簡単にいうと、表向きなことだったりすると思うんですけど、強く見せたりっていうのが強い文化であるじゃないですか?

確かにそれは俺も分かるし、だけどあんまりそこに意識はしてないかなって感じなんすよ、すごく正直にいうと。

「加工」について

—— 声を「飾る」という意味でオートチューン(※2)が挙げられると思うのですが、「百千万」という曲の中で「オートチューン聴き過ぎて嘔吐中」というリリックがありますが、今流行りのオートチューンに対する考えなどはありますか。

全然良いと思います。俺がやらないだけで。

—— 何かやらない理由などは?

レコーディングってあるじゃないですか。

人それぞれのレコーディングの仕方があって、僕とかがやってるレコーディングって変わらないんですよ昔から。

ボーカルに対して俺はほとんど加工しないで一本で録っているんですよ。

それじゃないと自分の中で言いたいことだったり伝えたいことが伝わらないなっていうのがあって。

聴くというところの向こう側に伝えたいという気持ちが俺は強い人間ぽくって、そこでオートチューンをやったりするとどうしても伝わらない。

ただ、オートチューンだったり今のその録り方だったり、いわゆるTRAP(※3)だったりとかで活躍しているアーティストってたくさんいると思うんですよ。

実際に俺はそれはそれですげえかっこいいと思っている。

名前は挙げないけどUSでも日本人でもかっこいいと思います。

むしろ出来ていない俺がダメなのかもしれないって感じるくらいです。

—— 現在、「インスタ映え」という言葉があるように、写真を加工したり、自分の私生活を飾ることでよりよく見せる風潮が強い世の中だと思うのですが…

あれ大変っすよね、そういうところにすごい重きを置いている人って、わりかしそっちが重要化されているみたいな感じに捉えられてるじゃないですか。

冷静に考えて例えば70、80になったときにやってるのかなって、俺はどうでもいいやって感じですかね。

—— アーティストとして、自分のことを飾るっていう意識を持って活動されている方もいらっしゃると思うのですが、HIPHOPにおける「飾る」と一般の人における「飾る」の違いなどは感じますか?

ごめん、全然考えてなかった。

そもそもまず友達がいないんだよそんなに。

分からないけど人それぞれあるんじゃないですかね。

例えば、毎日のようにSNSを更新するようなアーティストもいると思うし、逆にまったく更新しない人もいると思うし、それぞれの飾り方で違うんじゃないですかね。

私生活を見せる人も見せない人も含めてって感じですね。

でも俺はその先にあるその人それぞれの目的だと思うんだけど、向こう側にあるのが、何かを獲得するようなことをずっと考えながらやってるっていうのはちょっと精神的には気持ち悪いなあって思っちゃうような感じかな。

一般の人の「飾る」も、一般の人もアーティストも垣根はないと思ってて、一般の人の「飾る」っていうところは正直分からないんだけど、ある程度節度をもって楽しめて人を傷つけなければいいのかなってすごく思います。

—— アーティストとしての般若さんと実際のプライベートの般若さんの違いがあればお聞かせください。

どうなんだろうな、逆に俺の周りに聞いてみたい。

まあでも一応こんな人間ですけど一般常識は持って生きているつもりぐらいな感じで、それこそやっぱり表に出さない部分は出さないですよ、これは出す必要がないなってことだったりとか、わりかし謎な部分は謎って思われてると思うんで。

ただ俺ってたいした人間じゃないんですよ本当に。

だからそれ見せてもつまらないだろってところは見せてもしょうがないだろって思うし、あと全然そんなんじゃないんだけど、例えば、THE BLUE HEARTSっていうそれこそ生きる伝説みたいな人たちがいて、その人たちがバンバン私生活を出してたらやっぱり皆出さないでほしいっていうのがちょっとあると思う。

もう亡くなっちゃってるけど松田優作さんっていう役者が今生きていると仮定して、その人がプライベートバンバン出してたら皆やめてほしいって、あるんじゃないんですか。

別に俺はテキトーだから超テキトーなことしかやらないけどって感じです。

「リアル」の価値

—— 音楽も含めてアートって自分が作品として物事を昇華する必要があると思うのですが、その中でHIPHOPやレゲエというのは、そのままの自分と自分が作りだす作品が近いことが美学とされる、所謂「リアル」という独特の価値観があると思うんです。そこで、先ほどの、楽曲制作にあたってあえて素を出す人もいればそうでない人もいるというお話についてどうお考えですか?

それはおっしゃる通りで、独特すぎる価値観が広がったんですよ。

じゃあ何がHIPHOPなんだって言ったら、それHIPHOPでしょって言ったら全部それで解決しちゃうってのはあると思うんですよ。

すごく色んな人が出たんですよ正直。

ただ、残っている人は何かがあると思うんすよ。

単純にラップがうまいだけの人はめちゃくちゃいます、俺よりうまい人は昔からめっちゃいます、これはマジな話。

でもこの人が何で残ってるんだろうっていうのを深く考えていくとなんか分かる気がするなっていうのはあるんすよね、俺の中では。

わりかしみんな実体験から来てると思うんすよ、俺もそうだし、俺の経験したり周りが経験したことっていうのはすごい参考になります。

聴いててはまれば俺はいいと思うし、って感じですかね。

—— 般若さんご自身の思う「般若像」みたいなものは?

こだわりあるようでないし、毎日考えも変わっていくしね。

別に嘘言ってるわけじゃないんですよ。

自分に対するこうでなきゃダメみたいな決めつけは良くない気がします。

—— それはHIPHOPシーンだけにとどまらず?

 人生において、本当にそう思います。

—— いちリスナーとして、お聴きしていて殴られたような衝撃を受けるリリックもあれば、軽口っぽいものもあって、そのギャップというか…

(笑)はいはいはいはい。あの、9割嘘で良いと思うんすよ。ある意味。

1割の真実はあって良いと思うんすよ、あって然るべきだし。

俺はなんかいきなり、滅茶苦茶なこと言ってても良いと思うんすよ(笑)

今まで言ってたことの全否定だったりとか。それもウケるじゃないですか。そんくらいのほうが面白いなって思うんすよ。

そういう曲も、トライはしてるんですけど。

自分に突っ込んで自分でボケて自分に突っ込んでみたいなことができるようになったら、良いと思うんですよね。

…うーんそうだなー、でもかっこいいだけでやっぱこう注目されてる奴見るとブチ殺したくなるなー(笑)

自分を保つ―ギャップとの付き合い方/ネガティブへの対処

—— 飾らざるを得ない状況というか、自分を素のまま出せない時ってやっぱりあると思うのですが、自分の思ってるものと受け取る側が捉えるもののずれを感じた経験はありますか?

ずっと感じてるよ(笑)

…そこ悩んだこと沢山ありますね。

…しょうがないのかなって思いました。思うようになりました。

じゃあ作品作ります、俺はこういう思いで作りました、じゃあ、はい、リリースしました。…あれ?みたいな(笑)

ちょっと待てよみたいなのはいっぱいありました。

そういうふうに捉えられたんだ…って感じることは沢山あります。

この曲はあんまり刺さらなかったんだ、俺マジだったんだけどなみたいなのとか(笑)めちゃくちゃあります。

—— でもそれはそれとして、自然なことというふうに捉えていくのかは、言葉の受け取り方っていうのは人それぞれ違うという意識があって、ずれたけどしょうがないっていう…

うん、そこはしょうがないと思ってます。まあ、もう出ちゃったもんはしょうがないんで、っていう感じですかね。

—— その受け取り手の思っている像に寄せていくっていう意識は、全く無いんですか。

ああ、そこね。そこはめちゃくちゃテーマの一つだと思うんです。

だけど、…これ難しいんだよなあ、…寄せすぎても駄目だと思うんすよ、実は。

俺が誰かに作詞を依頼しててって言うんだったら話は別だと思うんですけど、やっぱ自分で作ってるものなので、そこばっかはしょうがないのかなって思いますね。

でも自分の中だと、さっきのその9割と1割の法則じゃないけど、1割はどっかにあるんすよ、やっぱこう歩み寄る部分だったりとか。

—— アーティスト以外でも、求められてるものと自分がずれてしまった時に、自分のやりたい方に価値を置くことをしんどいと思う人もいると思うんですが、こうありたいっていうのを強く持って自分を表現するために大事なことってありますか。

…外国行っちゃった方が早いんじゃないかなあ。

ハワイとかでも、フィリピンとかでも、女の人だってめちゃめちゃな格好してるよ。

こんな婆ちゃんとかになっても。ほんとに、好きな服着て、好きなことやった方が絶対良いよ。

人に合わせるのは、やっぱ違うと思う。

いや、人に迷惑をかけるのはもっと違うけど…もっと楽しんだ方が良いと思う。

…人の意見、人の顔色だったりとか、この人にどう思われてるのかなっていうのを考える時間は、…これねえ、無駄なんだよなあ~(笑)

いや、時としてやっぱ考えないといけない時があるのかもしんないけど、24時間あったら、1分考えなくて良いことだと思う。

—— やっぱり、日本は他人の顔色をうかがってしまう風潮が強いと思われますか。

え、超強いでしょ。洗脳されてるでしょう(笑)

まして今こんな世の中になっちゃったから。

…もう、正解が無いじゃないですか。なんか言えばすぐ批判されるんでしょう。

で、ずっと勘ぐってるわけでしょ。良くないでしょう。

…俺は、文句言われることだったりとか、そういうのって全然気になんないの、別に。

どうでも良いやみたいな。

…うん、何も全裸で歩いてるわけじゃないんだから、別に好きな格好してりゃ良いと思うんすよ(笑)

やっぱ今を楽しんだ方が絶対に良いと思う。

—— そういった閉鎖的な風土は、般若さんが活動を始められた時と今とで、強くなっていると感じますか。

すげえ感じる。正直可哀想だと思ってる。

今の子って言い方したら怒るかもしれないけど、俺らの時って、情報が無かったぶん皆自分の力で考えてたんだと思う。

…でもいろんな人と世界中繋がるようになってって、世界のトラック(曲)を自分で交渉して買えるようになったりとか、そういう所は素晴らしいし、凄いよね。

だけど、もう一人一人がメディアになっちゃったっていう所があるじゃないですか。

自由にやればやるで叩かれるんだったら、もう携帯捨てた方が良いよ、って俺究極思うんです。

…携帯とか置いて、海でも山でも見に行った方が俺良いんじゃないかって思う(笑)

…あとそうだな、電車もたまには乗るんだけど、やっぱりネガティブなものを凄いもらうから、昔から。

だから自転車乗ってたりとかするかな、遠くても。

—— 自分からネガティブな情報をもらわない工夫をされているということなんですけれど、具体的にどういったことが気になられますか?

あの…やっぱ目に力の無い奴らだったりとか、うーんやっぱ良くねえ、っていうか普通に、自分よりもあからさまにそれ爺さん婆さんだろって奴に席譲らない奴とか。

それが普通になってんのが、俺自身もむかつくし。それは良くないじゃないですか。

そこにわざわざ飛び込んでいって、お前それ違うだろって注意するような、あれは駄目これは駄目っていうふうになるのも嫌で。自分が。

ちょっとした工夫なのかなって思います。

表現すること

—— HIPHOPに出会ったのは偶然だったのか、それとも、自分の適性とか特性を理解した上で人生の中でその方向に向いていったのかっていう所は…

これが不思議で、ラップをやる予定は全く無くて。俺DJになりたかったんだよね。

で、高校生の時にバイトして機材買って、そっからDJやり始めてひょんな所からラップっていうものに出会って。

で、ちょっとずつそこにハマるようになってって感じの流れなんですよ。

むしろ日本語でラップなんてダサいでしょぐらいの感じの人間だったんで。それがまさかって感じですね。

で、今思えば表現の場を…17、18だったかな、ずっと探してたのかもしれないなっていう。

物凄く人生がつまらなくって。特にやりたいこともなく、勉強もできる人間でもなく、運動もできる人間でもなく、…かといって別に、悪いことをする度胸もなく。

たまたま出会ったっていう感じです。本当に。

これはもう、偶然だった。

—— 今って、そういった自分を表現する場自体は、凄い増えてると思うんですけど、選択肢が多すぎるっていうのもまた…

その通り。

選択肢が多すぎるんだよ。

…選択肢が多すぎるから選べないし、中途半端に手出して皆わけわかんなくなってる感じだと思う。

…自分が何できんのかなっていうことを、考えた方が良いのかなっていう、まあ目立ちたいだけだったら別に目立つだけのことをやりゃ良いと思うし。

…だから選択肢は沢山ありすぎるけど、そこの中で自分にハマるものっていうのがあるんじゃないのかな、って思います。

…でも情報を遮断するっていうやり方も、凄く大事なんじゃないかなって思います。

雑音を入れないというか。…うん、結構俺が知ってる人はそれやってる人もいるかな。

ああ今自分と向き合ってるんだなっていうような人多いんで。

—— インターネットとかを通じて入ってくる、こうあるべきみたいな情報とか…

ああ、多分そういうの全部遮断してるんだろうな。

「飾る必要って無いんですよ」

—— もう既に答えが見えている部分もあるんですけど、「飾る」ということに疲れてしまった人…

飾んなくていいんじゃない?

—— 飾るというステージに立てない人も、それはそれとして受け止めるべきなのでしょうか?

そもそも飾る必要って無いんですよ。

ああ、でもね、例えば、ちょっと整形して自分の人生良くなったという人も絶対いると思うし、豊胸して自分の人生良くなったという人もいると思うし、一概に言えねえ。

それも飾るっていうことの1つかもしれない。ちょっと借金してロレックス買ったみたいな、それも、男としてはね。

それも宝であって、それのために頑張る奴もいるかもしれない。

それで環境も変わると思う。うん。

でも本質の部分はあんまり飾っちゃうと、って感じだと思います。

精神的なところかなっていう感じです。はい。そんな感じなのかな?

終始フレンドリーでありつつも確かな熱さの秘められた姿勢で、ラッパー・般若ならではの言葉を聞かせてくれた。アーティストとしても一人の人間としても飾らない彼の心意気は、自分の本質に目を向けることなく「あるべき姿」を自らに押しつけてしまう私たちに、立ち止まって考え直す機会を与える。だからこそ「伝えたいこと」がダイレクトに飛び込んでくる彼の曲は、自分を見失った時や進む道に迷った時、背中を押してくれるのだろう。

※1 HIPHOPの象徴的なファッションの一部で、派手なアクセサリーの意。
※2 音声を機械的に補正するソフトウェアまたはその行為の意。
※3 HIPHOPの一ジャンル。

般若


1978年生まれ。ラッパー。95年から活動を開始し、俳優としても活躍の場を拡げる。2019年に日本武道館でのワンマンライブを開催。現在は、自身が主宰を務めた昭和レコードを独立し、新たなレーベル、やっちゃったエンタープライズにて活動を続けている。

アルバム紹介


12發 現在発売中の最新アルバム。