特別号 Interview 07

私たちは何のために自分自身を飾るのだろうか。人のため?自分のため?時にその手段の一つとして、私たちはメイクを選択する。いまや女性のものではなくなったメイクに、どんな可能性を見出すことができるのか。メンズメイクメディアMenkを運用する株式会社the senseの荒井美月さんにお話を伺った。

Menkが取り上げるもの

—— まず初めに、荒井さんが携わっているMenkについて教えてください。

株式会社the senseというスタートアップ企業に勤めていて、主にアパレルとメンズメイク事業を行っています。

メンズメイク部門の中では大きく分けてSNS運用、通販サイトの運営、アプリ開発、商品開発の4つの部署があって、私はその中のSNS部門を担当しています。

Instagramの記事を作ったり、フォロワーさんとコミュニケーションをとったりしています。

そのMenkというメディアは私が入社したときにスタートしたもので、開始から一年半くらい経ちます。

—— 記事で取り上げるものはどのように選出されているのでしょうか?

まず、記事のテーマを毎日決めています。

フォロワーさんのお悩みを定期的に聞くようにして悩みとして多いものをピックアップすることもあれば、時期に合わせたものをテーマとして選ぶこともあります。

例えば夏だったら日焼けだったり、肌のベタつきであったり。

それから、実際にドラッグストアや雑貨店などの店舗に訪れて売れ筋商品をチェックしたり、YouTubeやInstagramなどのSNSで情報を収集したりしてテーマに合うものを一つの記事につき20商品ほど選んでまとめています。

そこではメンズコスメのブランドの商品に限定しているわけではなくて、さまざまなメーカーから選出しています。

—— 女性のメイクブランドも対象なのですね。

そうなんです。それが面白くて。

メンズ美容市場に色々なメーカーが参入しているんですが全然認知されていないのが現状で。

ドラッグストアで買えたりCMが放送されていたりする有名ブランドのものは認知度が高いんですが、美容に詳しくない人でも知っているブランドっていうのはあまりないんです。

化粧品やスキンケアに限らずメンズメイクブランドから出ている商品を男性は使っているのかなと私も思っていたのですが、実際フォロワーさんに聞いてみるとそうじゃないんです。

ドラッグストアに売っているものとか同世代の女の子もよく使うようなプチプラコスメを使っていて、そこは面白いなと思います。

なので商品の選定をするときも、メンズメイクブランドに限定せずに性別関係なく使いやすそうだなと思うものをピックアップしています。

 —— 肌の質が男女で大きく異なると思っていました。

実際生物学的に女性よりも皮膚が厚いとか皮脂量が多いとかはあるんですが、肌質の違いがあるからといって、女性が使っているものを(男性が)使えないわけではないんです。

特にさっぱりから保湿タイプまでラインが分かれているメーカーは、商品数が多くて自分の選択肢が広がるのでよく使われているイメージがあります。

 メンズメイクに関して

—— メンズメイクを取り扱うようになったきっかけは何ですか?

起源としては、社長の経験があります。

男性でもメイクをするっていう文化を知って、少しでもコンプレックスを解消したいとメンズメイクを始めたら、自分が内面的にも変われた。

外見だけじゃなくて。

そこから、その体験を世の中のメンズに知って欲しい、メイクってものに対する偏見をなくしていきたいってことで事業がスタートしました。

 —— コンプレックスをカバーするという目的がある一方で、女性はメイクを自己表現と捉える人も多くいるように思います。そこはメンズメイクとの違いなのでしょうか。

人によるとも思うんですが、メンズメイクをする人の中でポイントメイクまでする人はあまり多くはないと感じます。

メイクにあまり抵抗がなくてアイメイクやシェーディングまでするという人もいますが、基本的には、コンプレックスをカバーするためのベースメイクだけをしている人がほとんどだと思います。

だからこそ、メイクが当たり前になって気分によって変えられたり選べたりするようになるといいなと思っています。

 —— 多く寄せられる悩みや相談にはどんなものがありますか?

いろいろありますが美容に関して一番多いのは、始めたいんだけど何から始めていいかわからないという声です。

あとは、親や周りの目が気になるという悩みも多いです。

Menkのターゲット層は主に10代前半から20代後半なので、フォロワーの割合としてはその子たちの親世代はすごく少ないですね。

 —— メンズメイクが「当たり前」にならない理由の一つとしてその周囲の視線というのがあるのかなと感じます。

いろいろな要因があると思いますが、親世代から理解されないというのはジェネレーションギャップというか、生きてきた時代が違えば価値観も変わっていくわけで。

今は性差別とか個性の差別とかが問題視されるようになってきているし、そもそもそういうことにフラットになってきていると思いますが、親世代にはメンズメイクの文化もあまりなかったのが現実なのでどちらが悪いとかではなくて世代の違いとしか言いようがないのだと思います。

やはり、慣れない、目新しいから抵抗があるのかなと。

その分、こういう理由でしているんだよとか周りにもしている人がいるよってことを話したらわかってもらえたという声もよく聞きます。

慣れってすごく大きいもので、当たり前になれば世代の違う人たちも今の子達はこういうものが主流なんだってなって変わっていくのかなと思います。

あとは、メイクというワード自体があまりよくないのではないかと感じていて、身だしなみと捉えてほしいなと思っています。

メイクってその響きだけで「女の子」のイメージが連想されてしまう。

だからそうじゃなくて、身だしなみの一つ、ツールとして考えてほしいです。眉毛整えてちょっと書き足して、ベースメイクするだけでも、かなり印象って変わります。

メイクって言葉から連想されるイメージを改めて、身だしなみと捉えてもらえたらメンズメイク人口も増えるんじゃないかなって思っています。

あとは、コロナ禍でマスクをするからメイクをしなくなったという人もいる一方で、マスクをすることで肌が荒れたり家にいる時間が増えて自分の顔を見る機会が増えたりしたことでメイクを練習したという声もありましたね。

 —— メンズメイクによって得られる主なメリットは何でしょうか。

自分に自信がつきましたとかメイクが自信につながったという声がとても多いです。

やっぱり、自分なりに自己満足でいいからメイクして出掛ける方が堂々と歩けるじゃないですか。

私たちみたいに日常的にメイクをする人のその感覚と一緒で、自分の見た目にコンプレックスがあった子が自信を持って歩けるようになったという話をよく聞きます。

 —— これからのメンズメイクに期待していることはありますか。

メイクってことに限定はしていなくて、メンズビューティーが浸透していくといいなと思っています。

スキンケアひとつとっても、どれを使ったら良いかわからないって人だったり化粧水だけとりあえず使っているって人だったり、まだ広がりにムラがあるというか。

そのスキンケアを浸透させた上で、自己表現のツールとしてメイクがあるといいなと思います。

メイクをするかどうかは一人一人の選択だと思うので、決してマストというわけではなくて。

ただ、メイクをすることで失われるものってあまりないし、得られるものってたくさんあると思うんです。

メイクをすることで得られた自信が、仕事だったり恋愛だったり勉強だったりいろいろなことにプラスに活きるんじゃないかって。

なので、メイクのハードルを少しでも下げて、喜びを体感してほしいって思います。

やっぱりメイクや美容って女の子がやるものっていうイメージが日本はまだ強すぎるんではないかと思うんです。

いろんな表現方法をしたい人がいる中で、そういう環境はしんどいのではないかと思っていて。

Menkを見てくれてる人だけでも「自分がやっていることってまちがっていないんだ」とか「受け入れてもらえるんだ」って思ってもらえるきっかけになればいいなと思っています。

そのためにもフォロワーさんとのコミュニケーションを積極的に取るようにして、「自分と同じ考えの人もいるんだ」と思える機会を提供したいと考えています。

メイクをしてほしいというよりも、メイクをすることによって得られる喜びだとか自信だとかを体感してほしい。

きっかけは別に私たちでなくてもよくて、アイドルでも、自分のコンプレックスでも、何らかのきっかけでメイクをしてみようかなという人が増えて、喜びに気がついたり自信をつけたりして前向きになる人が増えたらいいなという期待があります。

メイクデビューした時ってすごく楽しくなかったですか?びっくりしませんでした?

 —— 楽しかったです(笑)

私自身、初めてメイクした時、こんなに顔変わるんだってすごく嬉しかったんです。

何もわからない状態だったので、姉に聞いたりYouTubeを見たりしてひたすらやってみて。

実際フォロワーさん達の中にも、メンズメイク系の動画をYouTubeで見て参考にしているという人が一定数いました。

だから、メイクをしてみてほしいなと純粋に思います。やっぱりその喜びや楽しさに性差はないと思うので。

メンズメイク市場を広げたいというわけでもなくて、市場が広がるっていうのはあくまでも結果で、やりたい人だけがやればいいと思います。

やれって言われて始めるものでもないし、押しつけになってはいけないとは思いますね。

メイクとは

 —— メイクはコンプレックスをカバーしたり自己表現をしたり自分を「飾る」ツールということもできると思うのですが、メンズメイクにおいて「飾る」とはどのような意味があるでしょうか。

結局「飾る」ってどの領域においても承認欲求なのかなって思います。

結局、人の目がなかったらおしゃれをしようとも思わないし、誰かに良いと思ってもらいたいから「飾る」のではないでしょうか。

決してマイナスな意味で言っている訳じゃなくて、飾るっていう言葉の元にある感情は承認欲求なのではないかと思います。

だけど、ある一つのメイク法が絶対みんなから良いって言ってもらえることはないと思うんです。

「〇〇ウケ」っていう言葉がありますが、私はいつも違和感を持っていて。

だって、その子がかわいいって思うものがその子にとっての正解じゃないですか。

自分はそんなメイクはしないけど、その子にとってはそれがいい。

「飾る」っていうものに方程式みたいなものはなくてその人にとってそれが最適解で、それが自己表現の形であれば、承認されていいと思います。

型にはまらずに自己表現するのが、「飾る」っていうことなのかなって今の仕事をしていて感じます。

私はこの仕事をする前、みんなを認めるっていう寛容な心はなかったんです。

でも社員一人とってもいろんな活動をしている人がいて、色んな人がいるんだなって仕事を通して感じることができました。

街中を歩いている人達に対しても自分の見る目が変わりました。

昔は変な人だと決めつけていたものが、今では彼らなりの自己表現を行っていることを理解できるようになったんです。

それこそ彼らなりの「飾る」ということであって、表現の力があるんだなと感じています。

それぞれの正しいと思う自己表現の仕方が「飾る」ことなのだと思います。個性的な人ほど、承認欲求が満たされなくてフラストレーションが溜まるかもしれない。

例えば、一部のことにすごく詳しいオタクのような人がいたとして、その人のことを一部の人しか理解できないかもしれない。

ただ、こういう趣味の人もいるんだと気づきを得られるような自分でありたいと思っています。

そんなの好きなのって批判的になるのではなくて、そういう世界もあるんだなって、お互いの表現の方法を学びとして得られるような環境がメンズメイクでもできたらいいなと思います。

 ——最後に、読者へ伝えたいことはありますか。

自分が偏見を持っているものに対して、少しでも触れて体験してみてほしいです。

そしたら、こんなに楽しい世界が待っていたんだって気づけることもあると思います。

ある男の子がふとしたきっかけでメイクをしてもらって、鏡で自分を見たら感動した、みたいな体験も実際にあります。

私達はたまたまメンズメイクに関する事業をしているけど、これはメイクに限った話じゃないと思っていて、挑戦する前から否定せずに、興味を持つ姿勢を持ってほしいと思います。

社会人になって振り返ってみると、大学生はいろんなことに挑戦する時間があります。

だからその機会をぜひ活かしてほしいです。

コロナ禍でもできることはあると思うから、その一つの例としてメンズメイクに挑戦するのもありだと思います。

荒井 美月(あらい みづき)

株式会社 the sense SNS 部門担当。Instagram での記事の作成やフォロワーとのやり取りを行い、メイクに関する多くの情報を発信している。

Menk


Instagramのフォロワー数2万を超えるメンズメイクメディアMenk。「メンズメイクを当たり前に。」をモットーに情報を発信している。スキンケアからヘアケアまでその内容は多岐にわたる。Instagram @menk_inc